第11話 悪魔と嫉妬

 アザグリールは、私の言葉に瞬きをした。

「……設定?」

「ええ、そう」


 大きく頷き、アザグリールを見つめ返す。

「ほら、アザグリールは、どこからどう見ても高位悪魔でしょう」

 通常、下位悪魔は人の形を取らない。猫や犬など動物に似た形をとることが多い。


「お望みならば、畜生の形をとっても良いといいたいところですが、……それだと羽虫避けが面倒ですし」


 ……羽虫?


 なんのこと?

 ただの虫なら、動物だって関係ないはず。

 だから、アザグリールが意図しているのはもっと別のことのようだ。


 けれど、それを指摘する前に、アザグリールは微笑んだ。


「心配しないで、ナツネ」


 相変わらず嫌味なほど整っている顔は、どこからどうみても伝説の悪魔そのものだ。


「昨夜も言いましたが、俺は、原初の悪魔アザグリールに姿が似ているだけの、下級悪魔アルーーという設定でいきましょう」

「そんなの通用するわけーー」


 ないーーそう続けようとした言葉をのみこむ。アザグリールの人差し指が私の唇に触れていた。

 アザグリールは、その白く細くて長い指で、ふにふにと私の唇を弄び、片目を閉じた。


「大丈夫ですよ。俺を誰だと思ってるんですか?」


 悪魔、アザグリール。

 原初にして最強の悪魔だ。



「ふふ。まさか……俺に不可能があるとでも?」


 黄金色の瞳が細められる。


 思わず、ごくりと喉を鳴らす。

 その美しさに、絶対の強さに。


 これ以上の問答はーー不要だった。



 首を振ると、アザグリールは、私の唇から指を離した。



「いい子、ですね」


 母親が子供を褒める時のように、頭をくしゃりと撫でる。


「ーー!?!?!?」


 これでは、どちらが主人がわかったものではないわ。


 思わず、頭に手を当ててじろりと睨む。


「おや、嫌でしたか?」

「いやとかじゃないけど……」


 アザグリールは、私に好きになって欲しいから下手にでているとは言ったものの。

 高位存在であることに変わりはない。


 いくら従魔契約を結んだからと言って、安心はできない。



 こんな主従関係、アザグリールの気分次第で、いくらでも、逆転できてしまう。



「それなら、いいじゃないですか」


 アザグリールは、睨みつけてもどこ吹く風で、私の頭を再び撫でた。


 一瞬。

 ーーナツネ。


 母に撫でられたときのことを思い出した。


 もうあれは何年も前のこと。


「ナツネ? ……ふぅん」


 アザグリールは、郷愁にかられた私を見て目を細めた。

「アザーーいたっ!」


 アザグリールは、私の頬をむにっと掴んだ。

 そしてむにむにと横に引っ張る。


「なひふるのよ!!」

「俺という存在が目の前にいるのに、別の男のことを考えたナツネが悪いです」


 ようやく解放された頬を触りながらーー伸びてないか心配だーーアザグリールに首を振る。


「男じゃないわーー母のことよ」

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最強悪魔のご主人様 夕立悠理 @yurie

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