第10話 悪魔と接触
「……ふぅ」
食後の紅茶を飲み終わり、息を吐く。
結局、アザグリールの手料理は、これ以上ないほど美味しく、何よりも温かかった。
「その顔は、満足したと考えていいですか?」
「……ええ、とてもーーおいしかったわ」
安全であるなら何でも。
そう思っていた私にとってはかなり久しぶりの、美味しいと思える食事だった。
「ふふ、それはよかった」
アザグリールはうっとりと微笑むと、首を傾げた。
「……それで?」
「それで、とは?」
アザグリールの金の瞳がゆっくりと細められた。
ーー嫌な、予感がする。
「褒美はありませんか?」
「……褒美」
願いと引き換えに代償を取らない。
先ほどまでそう言っていたのは、やはり嘘だったのかしら。
まあ、そうよね。
相手は高位悪魔。
それも原初の悪魔ときている。
茶番に付き合う気になっていた自分の愚かさに、ため息を吐いた。
アザグリールの金の瞳を見つめ返す。
「つまり、たまーー」
「魂なんていりませんよ。……今は」
今は!?!?!?
ということは、やはりアザグリールの狙いは魂なの?
「俺が言っているのは、そんなことではなくーー少しは俺のこと、好きになってくださいましたか?」
「……は?」
思わず、アザグリールを凝視する。
しかし、相変わらず嫌味な程に整っている姿で、真剣な表情で私を見つめ返した。
「例えば口付けくらい、する気になりました?」
「口付けって……」
アザグリールはまだ茶番を続ける気らしい。
「そもそも、従魔契約の時にしたじゃない」
私は、自分の右手の甲に視線を落とした。
赤い花の模様は、アザグリールの首元も彩っている。
「あれは、ただの契約方法です。口付けとは、呼べません」
「……そう?」
それでも。
私にとっては、あれが初めて異性と唇を合わせた瞬間ではあったのだけど。
まあたしかに、喰らわれそうになっていたあれを口づけなんて生易しくはなかった。
ーーでも。
アザグリールに今、口付けたいかというと……。
「アザグリール」
アザグリールをまっすぐ見つめる。
「朝食、美味しかったわ。……ありがとう」
私はアザグリールに近づき、背伸びをした。
そして、頬を合わせてーーすぐに離れる。
「!?」
アザグリールの金の瞳がゆっくりと瞬く。
「唇は当たっていませんでしたが……これはこれで」
満足そうに口角が上がったのを確認して、内心で息を吐く。
……良かった。
アザグリールの目指すところが何かは知らないが、キスなどの肉体的接触はできるだけ出し惜しみしたかった。
男性には、接触がゴールという人もいると聞いている。
アザグリールと今の私にあるのは、「一目惚れ」という茶番と従魔契約だけ。
二つがどこまでこの悪魔を縛れるのかはわからない。
それならば、なるべく出し惜しみをするべきだわ。
「ところで、アザグリール。昨日も話していた、設定を詰めたいのだけど」
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