第14話 はぁ
「はぁ」
質問を終えた初老の警官が頭をぽりぽりと掻いた。
「どう見たってよぉ。確実にヤることヤってんだろ、お前ら」
「……なにもしてません」
「うるせぇなぁ。そうじゃねぇだろって言ってんだよ」
口が悪い警官だ。噂に聞く自白強要のアレだろうか。机をバンと叩かれたり、胸倉を掴まれたりするのだろうか。だが、意外とそうではなかった。
「ビビんなくてもいいよ」と、おれの心境を察したように警官が笑う。「ここは刑事課じゃない。生活安全課だ。噂にあるような取り調べはしねぇ」
「おれたちはなにもしてません」
「あぁわかったから。その主張は」座った椅子にふんぞり返り、警官は続ける。「ただおれらはこういう案件を何百ってみてきてんだ。本当にヤってないやつの態度ならわかってる。そういうやつらに比べて、お前とあの子は親密すぎるし通じすぎてるんだよ。朝から晩までヤってただろ。そういう感じだ。お前やあの子がなんて答えようと、それだけはわかっとけ。おれたちはわかってる」
シワの中の瞳は、おれを見透かしているかのような闇色をしている。けれど、おれが言えるのは一つだけだった。
「なにもしてません」
「うるせぇなぁ。全く。頭良いよ、あんた」
警官はそう言って立ち上がり、ドアを開けた。月岡が書類を持って入ってくる。
「調査の協力に感謝します」と初老の警官が嫌味たっぷりな口調で言う。「今日はこれでおかえりください。ただ念のため、最後に一筆お願いしますね」
横から月岡が机に置いた書類には『始末書』と書かれていた。
「一応な、未成年を家に上げちまうのもアウトなんだよ。次に同じようなことがあったら、すぐ一一〇番するように。よろしくお願いしますよ」
そう言うと男は部屋から出ていった。月岡が始末書の書き方を指示してくる。
『私、山城珈亜は、未成年の女子児童とSNS上で知り合い、彼女の希望に応じて横浜市内で会い、自宅に連れ帰ったことを深く反省しております。女子児童が一四歳の中学生であると知りながらも、その軽率な行動を取ったことは非常に不適切であり、今後二度とこのようなことがないよう強く誓います。幸い、彼女に対して不適切な行為は一切行いませんでしたが、このような状況自体が彼女の安心安全を脅かすものであり、非常に軽率であったと深く認識しております。今後は、同様の状況が発生した場合には、速やかに最寄りの警察署へと通報を行い、適切な対応を取るとともに、未成年者との関わりにおいて社会的責任を十分に自覚し、未成年者の安全を最優先に考える行動を取ることを誓います』
一語一句、月岡が言った文言を書き記すように言われた。
「千桜はどうなったんですか」
「それは答えられない」
彼女も同じような面接を受けているのだろうか。知りたかったが、明らかに交渉や嘆願の余地はなさそうだった。
最後におれは自分の名前や連絡先を書類に書き、月岡からは名前の横に拇印を求められたが、それを拒否すると、若い警官はなにも言わずに書類をまとめ、手に持っていた封筒にしまい込んだ。
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