第2話 死に至る病

その病が発覚したのは、確か小学5年生の冬のことだった。

授業中に視界がぼやけたと思えば気づいたら担架の上。救急車に乗せられるところだった。

後で聞けばなんでも意識を失ってけいれんを起こして泡を吹いたんだという。

「夏だったら熱中症とかあるんですが」

ひどく慌てて駆けつけた母に救急隊員がそう言ったことだけは、もうろうとする意識の中で妙にはっきりと覚えている。

救急車に乗ったのは生まれて初めてだった。それから5年でさらに3回ほど乗ることになったわけだが。

車中で聞くくぐもったサイレンも、近頃は懐かしい。


いろいろ検査をして医者から告げられたのは奇妙な、およそ信じがたい病だった。

端的に言えば、小説を書かないと死んでしまう病。

いや小説じゃなくても詩でもなんでもいい。とにかく毎日何か書かないと発作を起こして死に至る。

薬もあるにはあるが、根本的に治す方法は今のところ無いのだという。あるいは自然に治ることもあるそうだが、望みは薄い。


せめてもの救いはもともと創作が好きだということだった。

小説も詩も書く。一度だけだが俳句で賞をもらったこともある。

だから毎日書くなんてわけない。1日1時間と決めて、毎日黙々と書き続けた。


そうやって書き続けるのは楽しいか?

――わからない。

義務となった創作。文字通り命がけの創作。淡々と動く、生命維持装置。

生きるために書く。

それは確かに重大な理由だが。

そんなこと、と独り言ちる。

……そんなことのために書いていて、何になるのか。


毎日書いた文章は机の横に、あるいはパソコンの中にたまっていく。省みられることもなく。

母は捨てればいいと言うけれど、そんな殺生なことをする決心もつかない。


角田は書く理由を探していた。

動かない手を無理やりに動かしてまで書き続ける――生き続ける理由は、一体どこにあるというのだろう?

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