第15話 (ワント視点)
ワントはイライラしていたこともあるが、何よりセツーナ以外から兄ちゃんと呼ばれたことにキレてしまった。
普段から放出されていた魔力以外にもワントが本来持っている魔力が放出されてしまい、
ワントに絡んできた、いや絡んでしまった、ある意味被害者である可哀想な男達は
(なんだ?この威圧感は。まるでSランクと対峙した時みたいじゃねーか。それがこのフードを被った男から出てるってのか?魔力をただ放出しただけで?)
(嘘だ!コイツがSランクな訳がない!何かの間違いだろ。俺たちはBランク冒険者なんだ。何年もこっちは前線でやってきてんだよ!俺たち五人で囲めば、訳のわからないフード野郎なんかに負ける訳がないんだ!)という残念な思考回路をしてしまった。その結果、
「ちょっと圧を強くした位で、こっちがビビるとでも思ってんのか?お前らやっちまうぞ」
「おい、待て!やめ・・」周りの止めようとした他の冒険者達が言い終わるまでもなく
「忠告はしたぞ。死んでもいいってことだな。」
そうワントが言った瞬間、ドカンと地割れのような音が鳴った。
周りにいた冒険者達は何が起きたのか理解できなかった。一瞬にして五人が地面にめり込んでいる形で気絶しているのだ。
「は?嘘だろ?何が起きたんだ?」周りの冒険者達が放心状態になっていると、2階からドドドっともの凄い勢いで一人の女性が降りてきた。
「一体何が起きたのですか?一瞬とてつもない魔力を感じたと思ったら、すぐにもの凄い音が聞こえてきたのですが」
「ラティーナさん、この男がやったんですよ。」
一人の冒険者が、女性にそう報告した。するとラティーナと呼ばれている女性がこちらに近づいてきた。
「貴方がやったのですか?失礼ですが、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
はぁ、面倒な事になりそうだ。ただでさえセツーナに会えなくて気が立ってるってのに。まぁ、男達殴ったおかげで、少しは気分も晴れたし何より問題を起こしてしまったのは俺だから仕方ないよな。こんな事になるんなら殴らなければよかったな。絡んできた男達が悪いんだよ!アイツらが「兄ちゃん」なんて呼ぶから。俺悪くないよね?正当防衛だよ!正当防衛!
「やったのは俺だな。相手に名前を聞く前にそっちから名乗るもんじゃないのか?」
「確かにそうですね。大変失礼しました。私の名前はラティーナと言います。ここの副ギルドマスターを務めさせていただいてます。」
「俺の名前はアルファだ。今日冒険者登録をした。」
「今日ですか?失礼ですが、今日登録した新人冒険者が、Bランクパーティを一人で倒すなんてことできないと思うのは私だけでしょうか?」
まぁ、普通そう思うよね。俺でもそう思ってしまうからな。もうこれはある設定を使うしかなさそうだ。正直言うと、まだ使いたくはなかったんだ。
主はこの設定で大丈夫とは言ってたが、正直不安になってきた。セツーナもこういう時は当てにならない。主のこと好きすぎて、主の言う事は、基本肯定しかしないからだ。
「俺は、とある国で修行をしていた。修行の成果を試しに、この街にやってきたという訳だ。」
「修行の成果を試しにこの街にですか。とある国とは、どこの国か聞いてもよろしいですか?」
これ以上聞かれるのは、正直困る。適当にとある国とか、修行って言ったらなんとかなると思って、深くは考えてないからな。ここは、話を切り上げよう。
「冒険者は、あまり情報を公開しないと聞いたのだが、それは間違いなのか?」
「間違いではありません。冒険者にとって、情報は命ですからね。ひとまず、貴方の強さについては強いのは間違いないということ。これが分かっただけでも、こちらとしてはありがたい限りです。これからよろしくお願いしますね、アルファさん。」
やっとラティーナとの話が終わったと思ったその時、ギルドの入り口の扉が開けられた。
「大変だ!Bランクパーティが、ダンジョンで全滅の危機らしい!原因が、イレギュラーモンスターが発生したからみたいだ!」
「Bランクパーティが、全滅の危機になる程のイレギュラーモンスターが発生したとなると、そのモンスターのランクは推定最低でもAランク以上です。至急!Aランク以上の冒険者を集めてください!救援部隊を作ります。」
ラティーナが慌てている今のうちにギルドから出るとするか。それにしても、イレギュラーモンスターってのはそんなに強いのか?
どうせダンジョンには行くつもりだったし、救援部隊より先にイレギュラーモンスターとやらを見に行くとするかな。
★★★★★
ワントが五人を倒す瞬間がハッキリと見えた者が、一人だけ居た。
「あの五人が、弱かっただけとしても仮にもBランクの一斉攻撃が届く前に、瞬時に五人全員を殴って気絶させるなんてビックリしちゃった!!
近接戦闘がかなり強いタイプだろうなー!どうやってアルファ君に近づこう?これから楽しくなりそうな予感がする!」
血王の誕生 異世界転生したので、自分の理想とした悪役を目指すことにした! @acemaru
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