第7話 ホルス対赤色中隊
聖暦2024年9月20日 ナンスー民国南部上空
広大な田園の広がる大地の上を、16機の大編隊が飛ぶ。その遥か後方には、6機の爆撃機と8機の護衛機の姿もあった。
『間もなく戦闘空域だ。地上にはすでに敵機甲師団が展開している、そっちは爆撃機部隊に対応を任せよう』
〈ベンヌ〉早期警戒管制機からの通信が入り、〈ファルコン〉のコックピットにてジャンヌは小さく頷く。と隊長機から通信が入る。
『ホルス各機、目標は陸軍部隊を攻撃する攻撃機部隊だ。これを撃墜し、友軍の防衛を行う』
「了解、隊長」
ジャンヌが答えた直後、〈ベンヌ〉の管制官が声を上げる。それはまるで、何か異変に気付いたかの様だった。
『待て、前方より複数の機影を確認。機数は12、マッハ1以上で接近中!これは…』
直後、警報がコックピットに鳴り響く。それがミサイルを発射するためのレーダー照射である事を察するのに、1秒もかからなかった。
回避運動を取った直後、複数発のミサイルが飛来。チャフ・フレアの展開が遅れた機体に食い掛かり、二つの火球が生じる。その火球はミサイルを放った者達からも良く見えた。
『赤の1より中隊各機、戦闘開始だ。ミステリアの戦闘機を1機残らず撃墜しろ』
・・・
『警告、接近中の敵機は〈ティフォン〉戦闘機!チュリジア落としの『赤色中隊』だ!』
『くそ、赤色中隊かよ…!『王冠』からはるばる出張って来るとは…!』
『赤色中隊』。この戦争の発端となったチュリジア共和国侵攻にて、チュリジアの航空戦力を殲滅した事で知られるフランキシア精鋭の戦闘機部隊。その噂の『赤色中隊』が来ているなど想定外だった。
『各機、交戦を避けよ!繰り返す、交戦を避けよ!』
『りょ、了解…!』
フランキシアの自慢とする新型戦闘機〈ティフォン〉は、ミステリアの〈イーグル〉やヴォストキアの〈アリヨール〉の対抗馬として開発されたもので、特に『赤色中隊』と呼ばれている部隊の所属機は『精鋭』の名を欲しいがままにしていた。そんなものと〈ファルコン〉で真っ向から対峙するなど厳しい処の話ではなかった。
ジャンヌはキャノピーの外を見やる。味方機は反転して逃げの態勢に入っていたが、〈ティフォン〉はマッハ2の超音速で追いつき、ミサイルを発射。或いは機銃を放って撃墜していく。それはまさに台風が吹き荒れているかの如くだった。
『ホルス13、急いで逃げろ!こいつらはまともにやり合える相手ではない!俺がどうにか時間を稼ぐ!』
隊長機がそう言葉を送る中、彼の機体は軽やかに舞い上がる。そして鋭いカーブを引きながら敵機の背後に回り込み、反撃を目論むも、敵機はさらに鋭いカーブで追撃を振り切り、急旋回。文字通り一瞬で反撃に移った。
『隊長…!?』
ジャンヌは目を丸く見開く。隊長の機体は一瞬で燃え上がり、眼下の田園へと墜ちていく。僚機も同様にミサイルで主翼を吹き飛ばされ、機銃で胴体を貫かれて墜ちていく。
それから先、ジャンヌは北東へ機体を向け続ける。視線を向ければ真正面より友軍機が駆け付けてくれているのが見えたが、交差する直前に2機が火だるまになって墜ちていく。
制空権が保持された後、十数機の攻撃機が飛来。FEI軍はミステリア陸軍共々爆撃の雨に晒され、戦線はより北へと押し出される形となったのである。
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