第217話 違う、そうじゃない。その組み合わせは勿体ない

 久遠が【魔纏デモナイズ】を使えるようになり、それが寧々と徹にも共有されて2人は羨ましがった。


 自衛手段が強化されたのだから、その反応は当然だろう。


 それはさておき、久遠達は各国の教え子達のログインに備えて自分達も師匠キャラアカウントでUDSにログインする。


 ちなみに、久遠達のメインアカウントはUDSで統治エリアが没収や簒奪されないように調整されている。


 流石に久遠達が国に協力しているというのに、それで統治エリアが強奪されるというのは理不尽だし、今となっては獄先派との戦闘シミュレーターの意味合いが強いUDSで統治エリアの奪い合いをプレイヤー同士でする意味は薄れているからだ。


 パトリックとヘンリエッタがログインしたのを見つけ、久遠マルオは彼等に声をかける。


「来たか。レンタルタワーに挑む準備はできたか?」


「「Sir, Yes Sir!」」


「よろしい。では行こうか」


 上官扱いされることにも慣れたため、久遠マルオは師匠キャラアカウントに許された権限を使い、パトリックとヘンリエッタを昨日脱出したレンタルタワーの2階に連れて行った。


 探索を再開する場所は昨日強制脱出した場所と同じである。


 パトリックはマーモンプとバンテヒュージ、スケルトンランサーを召喚し、ヘンリエッタはマルファムとバンテヒュージ、スケルトンサモナーを召喚した。


 スケルトンランサーとスケルトンサモナーはあと少しで進化できそうだ。


 廃病院の内装になっている2階を進んでいく内に、久遠マルオ達の前にグールドクターの集団が現れた。


 (院長先生の回診にしては行儀がなってないな)


 そのように久遠マルオが思ったのは、白衣を着たグール達の目が血走っており、口から涎を垂らして唸りながらフロアを走って来たからだ。


「マーモンプは【闇矢ダークアロー】で、バンテヒュージは【体圧潰ボディプレス】だ。スケルトンランサーは【突撃刺突ブリッツスタブ】」


「マルファムは【闇噛ダークバイト】で、バンテヒュージは【体圧潰ボディプレス】よ。スケルトンサモナーは【骨壁ボーンウォール】でバンテヒュージ達の攻撃の余波を食い止めて」


 パトリックとヘンリエッタの指示に従い、従魔達がグールドクターに攻撃を仕掛けていく。


 バンテヒュージは2階の天井に頭こそ届かないが、思い切りジャンプすると天井に頭をぶつけてしまうぐらいには大きい。


 そんなバンテヒュージが2体いて、いずれも【体圧潰ボディプレス】を使ったのだから【骨壁ボーンウォール】がなければ久遠マルオ達まで揺れの余波で立っていられなかったことだろう。


 【骨壁ボーンウォール】の耐久度が0になって崩れた時には、グールドクターの集団は一掃されていた。


 システムメッセージを確認しているだろうパトリックとヘンリエッタを待ちながら、久遠マルオは師匠キャラアカウント限定コマンドを入力し、2人の従魔の進化先や融合フュージョンの組み合わせを確認した。


 レベル上限まであと少しだったスケルトンランサーとスケルトンサモナーはそれぞれ、ワイトランサーとワイトサモナーに特殊進化していた。


 数分後にはシステムメッセージの確認を終えたらしく、パトリックとヘンリエッタはグールドクターをバンテヒュージと融合フュージョンしようとしていた。


 (やれやれ、そっちじゃないだろ)


 自身の考える最適解と外れた融合フュージョンを使用としていたから、久遠マルオはパトリックとヘンリエッタに待ったをかける。


「違う、そうじゃない。その組み合わせは勿体ない」


「「え?」」


 これで良いと思っていたから、パトリックとヘンリエッタも違うのかと首を傾げた。


 若干NPCらしくない気もしたが、効率的な指導を行うには仕方ないと思って久遠マルオは口出しした。


「どうせバンテヒュージと融合フュージョンするなら、ワイトランサーやワイトサモナーに融合フュージョンした後だ。その方が強くなるだろう」


 アドバイスを貰えるならそれに従うまでだと判断し、パトリックとヘンリエッタはそれぞれワイトランサーやワイトサモナーにマッドドクターを融合フュージョンした。


 その結果、ワイトランサーとグールドクターからドクトランサーが誕生し、ワイトサモナーとグールドクターからドクトルマッドネスが誕生した。


 それらをバンテヒュージとそれぞれ融合フュージョンしたら、ドクトランサーとバンテヒュージの組み合わせによってガードクターが誕生し、ドクトルマッドネスとバンテヒュージの組み合わせによってマッドフランケンが誕生した。


 ガードクターは全身を包帯にまかれた巨大ミイラ医師であり、槍の代わりに大きな注射器を装備している。


 マッドフランケンは多くのアンデッドモンスターの肉片を繋ぎ合わせた巨人の融合フュージョンアンデッドであり、徒手空拳で戦うから武器は装備していない。


「無理に使役枠全てを使おうとしなくても良い。どうせこれからどんどん強いカードは手に入るのだから、これだと思うアンデッドモンスターのために枠をキープしておくのも立派な戦術だぞ」


「「Sir, Yes Sir!」」


 自分達が考えていた融合フュージョンアンデッドよりもずっと強い従魔を得られたから、パトリックもヘンリエッタも久遠マルオに対して信頼を深めた。


 何度か戦闘をした後、久遠マルオ達はコフィンディーラーに守られている3階に続く階段を見つけた。


 コフィンディーラーは直立している棺桶であり、中に何が潜んでいるのかパッと見ただけではわからないようになっている。


「マーモンプは【闇槍ダークランス】で、ガードクターは【猛毒注射ヴェノムインジェクション】を使え」


「マルファムは【闇握潰ダークグラスプ】で、マッドフランケンは【棘体圧潰ニードルプレス】よ」


 (魔法系アビリティは便利だが、頼り過ぎは危険だぞ)


 パトリックとヘンリエッタの出した指示を聞き、久遠マルオはまだまだ2人の考えが甘いと思った。


 何故なら、コフィンディーラーは【魔法吸収マジックドレイン】を会得しており、【闇槍ダークランス】と【闇握潰ダークグラスプ】を吸収したからだ。


 【猛毒注射ヴェノムインジェクション】は棺桶の内部にある本体には届いていないから無駄撃ちも同然であり、まともに攻撃が入ったのはマッドフランケンの【棘体圧潰ニードルプレス】だけだった。


 【棘体圧潰ニードルプレス】は体の至る所から棘を生やし、のしかかるのと同時に棘でも攻撃するアビリティである。


 この攻撃でコフィンディーラーの棺桶が破壊されたが、その中には一回り小さな棺桶が入っていた。


 (マトリョーシカタイプの守りはダルいな。さては、本体は小さいぞこれ)


「ヘイ、どうなってんだよ! 攻撃は通りにくいし壊してもまた同じ棺桶じゃねえか!」


「パトリック、落ち着きなさい! 物理攻撃なら効いてるわ! 魔法攻撃は吸収されてるから使っちゃ駄目よ!」


 パトリックは単純で短気な反応を見せるが、ヘンリエッタは声こそ大きくなっているものの冷静に判断できている。


 このまま見ていても問題なさそうだったが、久遠マルオは少しだけアドバイスをすることにした。


「どうやら敵は棺桶を幾重にも着込んでるらしい。本体は小さいかもしれないから、体の中心を物理攻撃で狙ってみると良い」


「「Sir, Yes Sir!」」


 2人がアドバイスを受けている間、コフィンディーラーは攻撃の準備を済ませて【鋼弾乱射メタルガトリング】を発動する。


 コフィンディーラーの狙いは自分にダメージを与えたマッドフランケンであり、マッドフランケンが被弾してHPをガリガリと削られていく。


「マーモンプは【悪戯プランク】を使ってコフィンディーラーの動きを邪魔しろ。ガードクターは【闇回復ダークヒール】でマッドフランケンを回復だ」


 【悪戯プランク】はランダムに状態異常を与えるアビリティで、敵の能力値合計値によっては耐性等のアビリティを貫通するから、防ぎにくくて地味に面倒だからまさしく悪戯である。


 今回はコフィンディーラーが沈黙状態になったため、しばらくアビリティを使えなくなった。


 その隙にガードクターがダメージを受けたマッドフランケンを治療し、マッドフランケンはHPが残り3割のところから6割以上まで回復した。


 パトリックが仕切り直してくれたから、ヘンリエッタは自分達の流れにするべく攻撃を仕掛ける。


「マッドフランケンはもう一度【棘体圧潰ニードルプレス】で攻撃。マルファムは薄くなった守りを【怪力刺突パワースタブ】でぶち破って本体を攻撃して」


 先にマッドフランケンに攻撃させたことで、コフィンディーラーの棺桶がまた1つ壊れた。


 中に入っていた棺桶のサイズは戦闘開始時点と比べて半分以下になっており、そこにマルファムの【怪力刺突パワースタブ】が上手く決まって本体を貫けたようで、コフィンディーラーは力尽きてカードになった。


 どうやら本体のHPはかなり少なかったようだ。


 アドバイス通り上手く流れを変えられたことから、久遠マルオの中でパトリックとヘンリエッタの評価が少しだけ上方修正された。

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