第216話 私はマスターのためなら常識をぶち破ってみせます
火曜日の朝、久遠が目を覚ましたらドラクールと添い寝していた。
(なんでドラクールが添い寝してるんだ?)
ドラクールならば桔梗や寧々のように寝込みを襲うことはないと信じていたため、貞操の危機は感じていなかったがどうして隣で寝ているのかは気になるところだ。
「…おはようございます、マスター。何か私に言うことはありませんか?」
いつも笑顔で迎えてくれるのに、今日はいつもと違ってジト目だから久遠はその原因を考える。
すぐに思い当たることがあったため、久遠は困ったように笑う。
「おはよう、ドラクール。もしかして、A国代表の2人の指導中にドラメットを召喚したこと?」
「その通りです。マスターには私がいるのに、マスターがドラメットを使いました」
師匠キャラのアカウントではドラクールのことを召喚できない。
それだけでもドラクールは不満を抱いているのだが、更に目の前でドラメットを召喚されたからドラクールは拗ねているのだ。
拗ね方が可愛げのあるものだったから、久遠はドラクールを抱き締める。
「ごめんな。でも、ドラメットを召喚したのはちゃんとした理由が2つあるんだ」
「教えてもらえますか?」
「勿論だ。まず、鬼童丸のアカウントとマルオのアカウントは別物と思わせなければならないから、マルオの従魔として鬼童丸がまだ一度もコラボ配信とかで見せたことのない従魔を使う必要があった。次に、その条件に当てはまるのがドラメットとノーフェイスだった場合、A国の2人に実力の差を教え込むのにわかりやすい派手さがあるのはドラメットだってことだ」
「…確かにそうですね。理由を聞いて理解はできました。でも、嫉妬してしまう私の気持ちはわかって下さい」
ドラクールは久遠の説明を聞き、久遠の選択は決して自分から心が離れたことによるものではないと理解できた。
それでも、久遠のことを慕っている自分の心がその状態を良しとしないのは久遠にわかってほしいとも思ったため、ドラクールは久遠を抱き締めながら自分の気持ちを正直に伝えた。
「いけないドラクールだ。憤怒だけじゃなくて嫉妬にも手を出すだなんて」
「私はマスターのためなら常識をぶち破ってみせます」
ドラクールが覚悟の決まった目で久遠のことを見て来た時、久遠の耳にアナウンスが届く。
『条件が満たされて鬼童丸は【
(【
久遠は突然聞こえたアナウンスに困惑した。
タナトスが【
しかも、【
「ドラクール、その覚悟を見せてもらうぞ。【
その瞬間、ドラクールの体が黒い光になって久遠に吸収され、久遠の外見が悪魔竜人と呼ぶべきものに変わった。
異様な気配を感じ、桔梗が久遠の部屋に慌てて駆け込んで来る。
「久遠、どうしたの!?」
「おはよう、桔梗。俺もアビリティが使えるようになったから試してみたんだ」
「そうだったんだ。でも、なんとなくどんなアビリティかわかった気がする。久遠からドラクールの力を感じるの」
「その通り。【
『送還状態とはまた違い、マスターと一体化できたのだとわかります。幸福な気持ちでいっぱいです』
(機嫌が直ってくれて何よりだよ。ただ、ずっとこの姿にでいるのはしんどいから解除させてもらうぞ)
久遠が【
それと同時に、リビングフォールンとヨモミチボシが勝手に顕現する。
「マスター、私も一体化してみたい!」
「私も【
「わかった。ちょっとテストしてみよう」
突然発現したアビリティだから、ドラクール以外にも【
ところが、どちらにも【
厳密に言えば【
「なんで発動しないんだ?」
「それは信頼関係の問題だろうね」
久遠の疑問に答えたのは、いつの間にか寝室に現れていたパイモンである。
「当たり前のように寝室にいるんじゃねえよ」
「仕方あるまい。鬼童丸が鬼に伝わるアビリティを突然発現させたのだから。いつも驚かせている我の方が驚かされるとは思わなかったぞ」
パイモンは【
「パイモンから一本取れて何よりだよ。それで、ドラクールには【
「そう、鬼童丸と相手の信頼関係によって発動可否が決まるのさ。鬼童丸とドラクールは互いに全幅の信頼を置いているから【
「マスター、私のこと信頼してないの!?」
「信頼してるぞ。ただ、リビングフォールンは偶に桔梗と寧々を煽ったりするから、信頼関係で言うとドラクール並みではないかも」
「そんなぁ…」
久遠の気持ちを聞き、心当たりがあったリビングフォールンは肩を落とした。
その一方、ヨモミチボシは落ち込んだりせずに久遠に訊ねる。
「マスター、私に足りないものはなんでしょう?」
「悪魔の
「構いません。私も私で愉悦感に身を任せて暴食している訳ですから。マスターに受け入れられるよう努力しましょう」
「サラッと我をdisるとはやるではないか、鬼童丸よ」
パイモンは話の流れで軽くdisられたため、発言とは裏腹にニヤニヤしながらそう言った。
自分に対する感情を喰らうための振る舞いがこれだから、パイモンについては処置なしと言ったところだろう。
『ぐぬぬ、またしても拙者だけ遅れてしまったでござる…』
まだ送還状態にあるアビスドライグが悔しそうにしていたため、久遠は申し訳なく思ってアビスドライグを召喚する。
「ごめん、召喚が遅れてたな。
アビスドライグは自分だけが従魔の枠を超えられていないこともあって、自分だけが取り残されている感覚でかなり焦っていた。
それを見てパイモンはポンと手を打つ。
「ふむ、ではここらで鬼童丸の我に対する好感度を上げるとしよう」
パイモンがそう言った直後に、久遠の耳に声が届く。
『アビスドライグが自分のことを忘れないのなら守護悪魔になると条件を提示しました。提示された条件を受け入れますか?』
(ごめん。マジでごめん。受け入れるよ)
アビスドライグだけ【
それは自分が悪いと思っていたから、久遠はすぐにアビスドライグの提示した条件を受け入れた。
『おめでとうございます。鬼童丸のアビスドライグが守護悪魔に昇格しました』
アビスドライグがドラクール達のように守護悪魔に昇格し、UDSや地獄にいる時と同じサイズまで大きくなった。
「これで拙者も守護悪魔でござる! 忘れられることもないでござる!」
「おめでとう。それとマジでごめんな。アビスドライグについては俺が悪かった。というかパイモン、従魔を守護悪魔するのってかなり力を使うって言ってなかったか?」
「構わんよ。これは鬼童丸が【
「なるほど。まあ、貰った分は働くさ」
恩を仇で返すことを良しとしない性格なので、久遠はパイモンが期待を込めてアビスドライグに守護悪魔となるきっかけを与えてくれたのだから、その分について借りを返すと言った。
それから、久遠はなんとなくできるのではないかと思って試してみる。
「【
その直後に、アビスドライグの体が黒い光になって久遠に吸収され、久遠の外見が黒竜槍士と呼ぶべき外見に変わった。
これにはパイモンも期待以上だとニヤリと笑みを浮かべ、リビングフォールンとヨモミチボシは自分達も早く最上級の信頼関係を築かなければと気合を入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます