第214話 待機。教官命令だ

 パトリックとヘンリエッタがシステムメッセージの確認を終えたところで、久遠マルオは2人に話しかける。


「進化はまだのようだが、融合フュージョンはできるんじゃないか?」


 久遠マルオの話を聞いて、パトリックとヘンリエッタがすぐに融合フュージョンの可否を確かめるべくカード一覧を調べる。


 その予想は的中しており、2人ともすぐに融合フュージョンを始める。


 パトリックのゴブリンゾンビはスケルトンサモナーと融合フュージョンし、ゴブリンネクロスが誕生した。


 ゴブリンネクロスはゴブリンゾンビを召喚できる【小屍召喚ゴブリンゾンビサモン】が使える。


 ヘンリエッタのゴーストハウンドはスケルトンランサーと融合フュージョンし、コボルメアが誕生した。


 槍を持ったコボルドの幽霊ということで、コボルメアには攻撃の時だけ実体化するような特徴も追加された。


 また、パトリックとヘンリエッタは2体目の従魔枠をスケルトンから、融合フュージョンの素材にしていないスケルトンランサーとスケルトンサモナーに交換した。


 その後もスケルトン系のアンデッドモンスターと何度か交戦し、2階に続く階段の前でスカルジャイアントが現れた。


「スカルジャイアントか。今の2人なら十分戦えるはずだ。今まで学んだことを活かして戦ってみると良い」


「「Sir, Yes Sir!」」


 スカルジャイアントはガシャドクロよりは小さいが、そのサイズはスケルトンの倍以上ある。


「コボルメア、【挑発刺突タウントスタブ】よ。スケルトンサモナーは【骨兵召喚スケルトンサモン】」


 コボルメアが槍で攻撃すれば、スカルジャイアントのヘイトがコボルメアに向かう。


 その隙にスケルトンサモナーがスケルトンを召喚して味方兼壁を増やす。


「ゴブリンネクロス、【小屍召喚ゴブリンゾンビサモン】だ。スケルトンランサーは【突撃刺突ブリッツスタブ】」


 ゴブリンネクロスもゴブリンゾンビをぞろぞろと召喚し、味方兼壁がどんどん増えていく。


 スケルトンランサーの攻撃が終わった後、スケルトンやゴブリンゾンビがスカルジャイアントに次々と攻撃してカスダメを与えていく。


 流石に数が多過ぎたせいで、ヘイトを集めていたコボルメアから全体にヘイトが散ってしまった。


 スカルジャイアントは【地震アースクエイク】を発動し、ゴブリンネクロスとスケルトンサモナーが召喚したゴブリンゾンビとスケルトンの混成集団が一掃された。


雑魚モブをいくら召喚しても敵の経験値にされるだけだ。召喚は止めておけ」


「マルオ教官、それは先に言ってくれよぉ!」


「なんでもかんでも先に説明したらお前達が成長しないだろう?」


「ぐうの音も出ねえぜ」


 パトリックの抗議に対し、久遠マルオは何を馬鹿なことを言っているんだと呆れた表情になる。


「パトリック、マルオ教官に全部教わってたら駄目に決まってるでしょうが! 早く戦闘に集中して! コボルメア、【闇噛ダークバイト】でスカルジャイアントの右足首を攻撃!」


「すまん! ゴブリンネクロス、同じくスカルジャイアントの右足首に【闇弾ダークバレット】だ!」


 右足首に攻撃を集中させれば、スカルジャイアントの右足首が破壊されてスカルジャイアントが転倒する。


 これでダウン状態と判定され、追撃ボタンがパトリックとヘンリエッタの正面に映し出される。


 当然のことながら、このタイミングで追撃ボタンを押さないはずがないから、2人の従魔達がスカルジャイアントを囲んで叩く。


 あともう少しでHPを削り切れるのだが、惜しいことにあと少しだけ能力値が足りなかった。


 スカルジャイアントは【体圧潰ボディプレス】でコボルメアに反撃を試みたが、物理攻撃はコボルメアに効かないからスカルジャイアントの反撃が無駄に終わる。


 再びコボルメアが【闇噛ダークバイト】を使えば、スカルジャイアントのHPが0になってスカルジャイアントはカードになった。


 スカルジャイアントを倒したことでシステムメッセージが流れ、パトリックとヘンリエッタはそれを確認する。


 その過程でパトリックのゴブリンネクロスとヘンリエッタのコボルメアが進化した。


 久遠マルオは師匠キャラアカウント限定コマンドを入力し、ゴブリンネクロスとコボルメアの進化先を確認した。


 (へぇ、特殊進化したんだ)


 今見ている画面により、久遠マルオはゴブリンネクロスとコボルメアの進化先が通常進化と特殊進化で分岐するとわかり、今回はどちらも特殊進化だと判明した。


 ゴブリンネクロスは通常進化だとホブゴブリンネクロスになるのだが、特殊進化によってインプネクロスに変わった。


 ゴブリンとインプは一般的に別種なのだが、一定以上の能力値を有する骨系アンデッドモンスターを倒してレベル上限に達した場合、骨格を変形させて強制的に種族を変えてしまったのだ。


 その一方、コボルメアは通常進化だとコボントムになるのだが、特殊進化によってウルファントムに変わった。


 コボルドの幽霊から狼人間の幽霊に成長しており、コボルメアの時に持っていた槍はなくなっていた。


 スケルトンランサーとスケルトンサモナーは進化しなかったが、パトリックとヘンリエッタのレベルが20に到達した。


 これで2人共3体目の従魔を使役できるようになった。


「よくやった。先程の戦闘でゴブリンネクロスとコボルメアが特殊進化しただろう? 特殊進化や融合フュージョンを重ねることで従魔が強くなるから、あらゆる敵を倒すと良い」


「「Sir, Yes Sir!」」


 久遠マルオの話を聞き、パトリックとヘンリエッタは敬礼で応じた。


 まだ時間があるから2階に進んだ久遠マルオ達だが、悪い乱数を引いてしまったようで内装が廃病院のフロアでゴーギャスト率いるゴーギャンの群れに出くわした。


 (流石に今の彼等にはキツいな)


 一瞬でそのように判断し、久遠マルオは戦おうとするパトリックとヘンリエッタを手で制す。


「待機。教官命令だ」


「「Sir, Yes Sir!」」


「ドラメット、【竜化ドラゴンアウト】からの【大地吐息ガイアブレス】で薙ぎ払え」


「「え?」」


 久遠マルオの口からとんでもないワードが聞こえ、パトリックとヘンリエッタはキョトンとする。


 そんな2人を置き去りにして、ドラメットがドラゴン形態に姿を変えてから【大地吐息ガイアブレス】で一掃する。


 ドラメットはレベルが低くとも能力値が高いから、レンタルタワーの2階に出て来る敵なんてあっさり倒せてしまった。


『ドラメットがLv10からLv24に成長しました』


『ドラメットの【破壊打撃デストロイストライク】が【極限打撃マキシマムストライク】に上書きされました』


『ゴーギャストを1枚、ゴーギャンを10枚手に入れました』


 (ほぉ、やっぱり1体だけで戦ってると経験値がすぐ稼げる)


 ドラメットのレベルアップとアビリティの強化を確認しつつ、久遠マルオはドラメットに【竜化ドラゴンアウト】を解除させた。


 まさか自分の教官がドラゴンを使役していると思わなかったから、パトリックとヘンリエッタは久遠マルオに詰め寄る。


「マルオ教官、ドラゴンなんて最高にクールじゃないか! どうやって手に入れるんだ!?」


「マルオ教官、どうかアタシ達にドラゴンを使役させてほしい! アンデッドモンスターなんて目じゃない強大な力をA国に!」


「落 ち 着 け」


「「Sir, Yes Sir!」」


 わざとゆっくり力を込めて久遠マルオが力を言えば、パトリックとヘンリエッタは久遠マルオを不快にしたことに気づき、焦って背筋を正した。


『マルオの称号<軍曹>が称号<鬼軍曹>に上書きされました』


 (誰が鬼軍曹だ。おのれパイモンめ、絶対に楽しんでるだろ)


 聞いていて苛立たせるシステムメッセージが流れたが、久遠マルオはどうにかポーカーフェイスを維持してみせる。


「お前達がこの力を得られるのはまだ先だ。思いの外このフロアの敵が強いようだ。今日はもう少しレベル上げをしたら終わりにした方が良いだろう」


「まだやれる!」


「先程の集団を倒せる実力じゃなければ、無理に戦闘を続けさせる訳にはいかないのだが、また敵が来たようだ」


 そう言って久遠マルオが視線を向けた先には、マミー2体が見えた。


「ふむ、あれぐらいなら倒せるはずだ。マミーは融合フュージョン素材として幅広く活躍する」


「インプネクロス、【闇矢ダークアロー】だ」


「ウルファントム、【怪力刺突パワースタブ】よ」


 融合フュージョンによって優秀な従魔が誕生すると聞いていたから、パトリックもヘンリエッタも目の色を変えてマミーを倒した。


 あっさりとマミーを倒したところで、2人は手に入れたマミーを素材にして融合フュージョンを始めて以下の組み合わせが誕生した。


 インプネクロスとマミーを融合フュージョンして、全身を包帯で巻かれたインプという見た目のマーモンプ。


 ウルファントムとマミーを融合フュージョンして、包帯を巻かれた狼男の幽霊であるマルファム。


 スカルジャイアントとマミーを融合フュージョンして、巨大マミーの外見をしたバンテヒュージ。


 まだ3階に続く階段は見つかっていないが、根を詰め過ぎても良い結果は出せないから、師匠キャラアカウントに許された権限を使い、久遠マルオはパトリックとヘンリエッタをレンタルタワーの外に強制脱出させた。


 2人のログアウトを確認した後、久遠マルオもログアウトした。

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