第213話 もののついでだ。今から俺達の力を披露しよう

 A国とC国、R国の代表者達を鍛えるため、彼等のミニゲームのレンタルタワーは師匠キャラと同じ国の代表者同士が同じレンタルタワーに入場できるように調整されている。


 久遠マルオ達が入ったレンタルタワーの1階は、日本でよく見かける墓場だった。


「マルオ教官の従魔はどんな奴なんだ?」


 入ってすぐにパトリックが疑問を口にするから、久遠マルオは1体だけ従魔を召喚する。


召喚サモン:ドラメット」


 ドラメットはドラゴンの要素を兼ね備えた両性具有の悪魔なのだが、パッと見た感じではドレスアーマーとボディラインのせいで女型悪魔に見える。


 その容姿がストライクゾーンに入ってしまったようで、パトリックの鼻の下が伸びている。


「パトリック、顔がすごくだらしないわ」


「オホン、実に美しい見た目で気が緩んでしまった」


 (ドラメットが両性具有って聞いたら、パトリックは卒倒するんじゃないか?)


 そんなことを思いつつ、折角だからと久遠マルオは提案する。


「もののついでだ。今から俺達の力を披露しよう」


 こんなこともあろうかと、事前にパイモンから教える者の立場として侮られないように実力を発揮する機会を用意してもらっていた。


 言わばチュートリアルな訳だが、久遠マルオが師匠キャラアカウントしか見えないコマンドを入力することで、久遠マルオ達の前にリッチが出現する。


 当然のことだが、パトリックとヘンリエッタの従魔では太刀打ちできる強さではない。


 リッチが現れて早々に魔法系アビリティを使おうとしているのを見て、久遠マルオはドラメットに指示を出す。


「ドラメット、【岩腕握潰ロックグラスプ】だ」


 その指示を受け、ドラメットがドレイクハンマーを持っていない方の腕をリッチに向けて伸ばす。


 そうすることで、その腕に纏う用に出現した岩の腕がリッチの体を握り潰す。


「なんてこった。一撃かよ…」


「こんな力をアタシ達も手に入れられるのね…」


『ドラメットがLv1からLv10に成長しました』


『リッチを1枚手に入れました』


 (マルオで戦ってもレベルアップは引き継がれるって言ってたっけ。ありがたい)


 そもそもプライベートではあまり友人以外に時間を割こうとしないから、パトリックとヘンリエッタの師匠として時間を使うことに久遠は乗り気という訳ではない。


 それでも、こういったチュートリアルで自身の従魔を強化できるのなら、自分のためにも時間を使えていると感じられるので、久遠はありがたいと感じたのである。


「とまあ、こんな感じだ。守りたいものがあるならここで強くなれ。そのための知恵は貸そう」


「「Sir, Yes Sir!」」


『マルオの称号<教官>が称号<軍曹>に上書きされました』


 (喧しいわ!)


 パイモンが余計な要素を仕掛けていたものだから、久遠マルオは心の中でツッコんだ。


 師匠キャラアカウントにはデフォルトで<教官>の称号が与えられているのだが、今回の一件で代表者達に実力をわからせた時のための称号をわざわざ用意しているあたり、パイモンもなんだかんだで楽しんでいるらしい。


 流石にツッコミを声に出すとNPCではないとバレるから、久遠マルオはグッと堪えてレクチャーを始める。


「従魔を強くする方法は戦ってレベルを上げることだが、従魔は進化と融合フュージョンによって強くなる」


「進化は1体でもできるが、融合フュージョンは2体のアンデッドモンスターが必要ってことなの?」


「その通りだヘンリエッタ。補足するならば、条件を満たすことで通常進化とは別の特殊進化をするケースもあるし、融合フュージョンに3体あるいは4体のアンデッドモンスターを素材にするケースも確認されてる。とりあえず、今は敵と戦って経験値を稼ぎ、アンデッドモンスターのカードを集めることを最優先にしろ。そうすれば、おのずとできることが増えて来る」


「Sir, Yes Sir!」


 (どうしよう、これって悪ノリじゃなくてマジなやつじゃねえか)


 敬礼するヘンリエッタを見て、久遠マルオはどうしたものかと心の中で苦笑した。


 それからすぐに、スケルトンの集団が先程の久遠マルオの戦闘の音を聞きつけて集まって来た。


「さあ、パトリックとヘンリエッタの出番だぞ」


「ゴブリンゾンビ、片っ端から【突撃ブリッツ】だ!」


「ゴーストハウンド、【挑発タウント】よ!」


 (連係プレーがなってないな)


 Lv1のゴブリンゾンビとゴーストハウンドのアビリティが少ないのは仕方ないが、それはそれとしてパトリックとヘンリエッタの連係プレーはできていないと言えよう。


 何故なら、本来であれば先にゴーストハウンドが【挑発タウント】を発動してヘイトを集め、物理攻撃の利かないゴーストハウンドにスケルトンの攻撃を集めるのがセオリーだからだ。


 見た感じではパトリックが突っ走ったのは否めないが、協力してタワーに昇る以上手の内を隠していても何も良いことはない。


 出し抜いてどっちかが先にタワーの頂上に到着したとしても、それによる景品がある訳ではないのだ。


 指示の順番はミスだが、ヘイト集めの効果でまだゴブリンゾンビに攻撃されていないスケルトンの集団は、ゴブリンゾンビではなくゴーストハウンドに攻撃し始めた。


 しかし、ゴーストハウンドは幽体だからスケルトン達に囲まれて攻撃されたとしても、全くダメージは入らない。


 スケルトン達がいくら群れようとも、敵の攻撃は一切ゴーストハウンドに当たっていない。


 ゴブリンゾンビが順番に敵を見つけては突撃すれば、パトリック達はスケルトンの集団を倒すことに成功した。


 ゴブリンゾンビもハウンドドッグもLv10までレベルアップし、それぞれ新たなアビリティを会得する。


 ついでに言えば、パトリック達のプレイヤーレベルも10まで上昇したため、2体目の従魔を召喚できるようになった。


 今はどちらも2体目の従魔としてスケルトンを召喚している。


「お前達、攻撃するよりも先にゴーストハウンドにヘイトを集める方が先だろ? 何故その反省をしない?」


「そうよ、アタシがサポートする前に勝手に突っ走らないでよね」


「すまん、スケルトンを見るとつい攻撃したくなってな。奴等に銃も手榴弾も効かなかったから、本当に攻撃が通るのか確かめたかったんだ」


「気持ちはわからなくもないけど、今は強い従魔を祖国に持ち帰るために強くなるのが最優先よ?」


「悪かった。次から気を付ける」


 A国ではアマイモン=レプリカの集団が現れる前、スケルトン大量に現れて暴れ回った。


 その時に銃火器が通じなくてもどかしい思いをしたから、パトリックは本当に攻撃が通るのか気になるのも無理もない。


 ヘンリエッタの注意を受けて素直に受け入れたことから、パトリックの人間性というものを久遠マルオはかなり理解できた。


 無力だった自分にリベンジのチャンスが来てはしゃいでしまったのだとわかれば、より戦いで敵を多く倒せる方向に導けば良い。


 先に進んで行くと、今度はスケルトンランサーとスケルトンサモナーがいた。


「まずはアタシからね。ゴーストハウンド、【挑発タウント】よ」


 ゴーストハウンドがヘンリエッタの指示を受けて【挑発タウント】を使えば、スケルトンランサーとスケルトンサモナーはゴーストハウンドにヘイトを向ける。


 それを確認してからパトリックが指示を出す。


「ゴブリンゾンビ、スケルトンサモナーの頭に【打撃ストライク】!」


 スケルトンサモナーはスケルトンを召喚できるから、放置しておくと敵が増えて厄介だ。


 それゆえ、先にそちらを潰す指示を出せたというのはポイントが高い。


 ゴブリンゾンビの棍棒がスケルトンサモナーの頭蓋骨に罅を入れ、スケルトンサモナーはその衝撃で膝から崩れ落ちてダウン状態になる。


「追撃ボタンを押せばターンとは関係なしに攻撃できるぞ」


「「Sir, Yes Sir!」」


 敬礼しながら追撃ボタンを2人が押せば、スケルトンサモナーを4体の従魔が囲んでボコボコにしていく。


 HPの数値が高い方ではないから、スケルトンサモナーは今の追撃によって力尽きた。


 スケルトンランサーがゴーストハウンドに【刺突スタブ】を放つが、物理攻撃ゆえにゴーストハウンドには効かない。


「ゴーストハウンド、【影噛シャドウバイト】でスケルトンランサーの足首を削りなさい」


 ヘンリエッタはゴーストハウンドが会得した攻撃アビリティで反撃し、スケルトンランサーは足首をやられてバランスを崩してしまい、槍を杖にしないと立てなくなった。


 そこからパトリックとヘンリエッタのスケルトンが連続して【飛斬スラッシュ】を使えば、スケルトンランサーも力尽きた。


 初戦は残念なところが見えたけれど、2戦目はちゃんと反省を活かせていたA国組に久遠マルオは感心した。

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