第212話 文句は全てパイモンによろしく。俺にはどうにもできない

 明日から会社に行かずとも給料が発生すると言われたすぐ後に、会社ブリッジの課長である石原から社用スマホに連絡があった。


 パイモンの言った通りで、明日から平日もA国、C国、R国のプレイヤーの指導が終わるまで久遠と寧々は公休扱いであり、石原はUDSのことはよくわからないが日本の防衛に繋がることは理解しているため、2人には頑張ってもらいたいとエールを送った。


 電話が切れたところで、久遠も寧々も苦笑するしかなかった。


「マジで公休扱いだったな」


「私、転職してから1ヶ月以内なんだけど大丈夫なのかな?」


 久遠の方はさておき、寧々はブリッジに転職してから日が浅いのに公休扱いが適用されて戸惑っていた。


 しかし、パイモンが無理を通していて石原からも裏付けの連絡が来た以上、それを信じるしかあるまい。


 会社の方が一段落したところで、久遠は気になっていたことをパイモンに質問する。


「パイモン、俺達は自分のアカウントのまま指導するのか?」


「そう、その説明もしようと思っていた。鬼童丸達の情報が少しでも3ヶ国に流れないように師匠キャラ用のアカウントで指導してもらう。ついでに言えば、実体化できる守護悪魔や従魔は指導中に使えないようにする」


 その瞬間、ドラクールが抗議する。


「パイモン、私達にマスターを守らせないと言うのですか?」


「そうではない。これから使ってもらう師匠キャラアカウントは、鬼童丸達のデータをトレースしたNPCだと向こうに伝える。大罪武装と枢要武装を持った君達が現れれば、本物だとバレてしまうから我慢してくれ。それに、万が一鬼童丸達に歯向かって来た時、こちらが戦力を過小に見せておけば向こうは侮るに違いないから、その時にはドラクール達がボコボコにすれば力の差を効率的にわからせられるだろう?」


「…師匠キャラアカウントであっても、私達を召喚できないだけでマスターと話はできる状態にしておいて下さい。それと、有事の際はメインアカウントに即座に切り替えて私達を召喚できるように調整もして下さい」


「お安い御用だ。だが、できる限り正体は隠しておくと良い。その方が無駄な争いをせずに済む」


 ドラクールとしても久遠の安全が最優先だから、他国に久遠が狙われないように真の実力を隠して久遠達にNPCの真似をさせるというパイモンの考えに賛成した。


 3ヶ国から集まる弟子の指導についての役割分担について、パイモンは予め決めていたものを続けて説明する。


「役割分担を離すと、鬼童丸がA国の2名を担当し、リバースがC国の2名を担当で、ヴァルキリーはR国の2名を担当という風にする。宵闇ヤミには指導の様子を観察して回ってもらい、自分のチャンネルで報道するような役割とする」


「他国の者がどんな戦力を持っているのか、桔梗にニュースとして報道して周知させるってことか?」


「その通りだ。大国なんて状況が変われば掌クルクルはお手の物だろう? だから、日本からこんな風に借りを作っているというのを周知させるのだ」


 知らぬ存ぜぬなんて許さないと言わんばかりに、借りが量産される様を報道しようと言うのだから、パイモンのやり方に久遠達は苦笑する。


「効果的だがえげつないな。流石悪魔と言ったところか」


「褒め言葉として受け取っておこう。それと、彼等の指導は日本サーバーではあるけれど、ミニゲームのレンタルタワーを使って行う。したがって、各国の代表同士が接触しないようにする。揉め事を起こされると面倒だからね」


「それで良いと思う。合同訓練なんてトラブルが発生する未来しか見えないし」


 その後も打合せを行った後、久遠達はパイモンから3ヶ国のそれぞれの代表の情報を提供された。


 指導は今日の午後からということで、久遠達はその情報に目を通して午後を迎えてからUDSに師匠キャラアカウントでログインした。


 久遠が臨時で使う師匠キャラアカウントの名前だが、マルオという名前でアイマスクをしたネクロマンサーだった。


 その名前はタナトスから聞いたことのあるものであり、親人派のラプラスという悪魔曰く、過去に【異界監視パラレルモニタリング】で監視して来たパラレルワールドの中に、死皇帝という二つ名を得たマルオと呼ばれる人間がおり、四大悪魔に匹敵する6体の強力なアンデッドモンスターを従えていたという話だ。


 (マルオって名前を使っちゃって大丈夫なのか?)


 与えられているということは大丈夫と判断するしかないから、仕方なく久遠はマルオのアカウントを使うことにした。


 マルオの所持アイテムは基本的に鬼童丸のアカウントと別だから、基本的には何もない。


 召喚できる従魔を確認したところ、事前に言われていたドラクールとリビングフォールン、ヨモミチボシ、アビスドライグに加えてオリエンスも召喚不可になっていた。


 これはパイモンがオリエンスのやらかし防止のために講じたものであり、マルオアカウントでログインした久遠に対してオリエンスが早速頭に直接話しかけて来る。


『ちょっと、妾を不自由にさせるなんてどういうつもりかしら?』


 (文句は全てパイモンによろしく。俺にはどうにもできない)


 久遠がそのように念じれば、オリエンスは仕方なく静かにした。


 パイモンが自分の身動きを制限したとなれば、弱体化して回復中の現状ではどうにもならないから、無駄に足掻かず力の回復に専念するつもりらしい。


 オリエンスのせいで脱線してしまったが、ビヨンドカオスとメディスタ、ミストルーパー、ダイダラボッチ、ベキュロス、ウルキュリア、ドラメット、ノーフェイスはマルオアカウントでも召喚できる。


 確認を済ませたら、久遠マルオの視界にA国の代表者2人がゲストアカウントでログインしたことを告げるシステムウィンドウが表示される。


 A国とC国、R国から代表して2人ずつ参加することになっている訳だが、男女1人ずつという制限は設けていなかったにもかかわらず、ログインして来たのは男性と女性が1人ずつだった。


 男性プレイヤーはパトリック、女性プレイヤーはヘンリエッタと表示されており、どう見ても本名だった。


 (ゲストだから本名でってことかね)


 久遠マルオはそのように思いながら、レンタルタワーの入り口で2人を出迎えた。


「よく来たな。お前達がA国の代表か?」


「チッ、NPC風情が生意気な」


「パトリック、謝りなさい。AIの機嫌を損ねてA国が支援を受けられなくなったら、アンタと一緒にアタシまで戦犯扱いされるわ」


「…すまん。大勢の部下が悪魔に殺されて気が立ってたんだ。俺はA国軍のパトリックだ。奴等をぶち殺せる力を手に入れたい」


「同じくヘンリエッタ。祖国の平和のため、どうか力を貸してほしい」


 パトリックとヘンリエッタが喋っているのはA国語だが、デーモンズソフトの調整によって日本語に自動翻訳されているからA国語が喋れなくとも問題ない。


「そうか。俺はマルオ。これからパトリックとヘンリエッタが一人前になるまで教官を引き受けてる。早速だが、最初に与えられた従魔を見せてくれ」


 パトリックの発言でドラクール達がざわついたけれど、パトリック達の事情が少しだけわかったため静かになった。


 久遠マルオはNPCらしく無駄話をせず、淡々と戦力確認を進める。


召喚サモン:ゴブリンゾンビ」


召喚サモン:ゴーストハウンド」


 パトリックが召喚したのはゴブリンゾンビであり、ヘンリエッタが召喚したのはゴーストハウンドだった。


 (特訓のためだから、最初の従魔は通常より強いアンデッドモンスターが与えられたのか)


 UDSを普通にプレイするならば、スケルトンとゾンビ、ゴーストのいずれかから選択する仕様なのだが、A国の2人はそれ以外の選択肢を与えられていたようだ。


「よろしい。早速だがレンタルタワーについて説明しよう。パトリックとヘンリエッタには、従魔と共にレンタルタワーに入ってもらう。そこで戦闘を繰り返して強くなれば、2人の使役できる従魔が増える。そして、特訓期間が終わった時に1体だけ好きな従魔をA国に持ち帰り、敵との戦闘で戦わせられるようになる」


 各国の代表者にカードを1人1枚提供するのは決定事項だから、久遠マルオは予めそれを伝えてパトリックとヘンリエッタのやる気を引き出す。


 実際、好きな従魔を1体だけ持ち帰れると聞いたことで、パトリックもヘンリエッタも目の色が変わった。


 説明が終わったところで、久遠マルオはパトリックとヘンリエッタを連れてレンタルタワーに入場した。

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