第207話 乱数の女神よ、我に力を!

 視聴者が一気に増えるのは宵闇ヤミとして嬉しいことだが、今回のイベントにおける最優先の目的は宵闇ヤミの認知度を高めることではなく、ヤミんちゅ達の戦力強化だ。


 早速、宵闇ヤミはルール説明に移る。


「第一回ヤミんちゅ杯だけど、ガチャフェーズと融合フュージョンフェーズ、評価フェーズの3つのフェーズで構成されてるよ。まずはガチャフェーズについて説明するね。とは言ったものの、このガチャフェーズでやることは簡単で、5分間ひたすらガチャを回すだけだよ」


「回す、ハズレ。回す、ハズレ。うっ、頭が!」


「物欲センサーは働き者ってはっきりわかんだね」


「グロ画像は嫌だ、グロ画像は嫌だ!」


 この配信の概要欄でイベントの大雑把な流れは掲載していたため、最初にアンデッドモンスターガチャを回すことになるのは周知の事実だ。


 それでも、ガチャと聞くだけで悪しき記憶が蘇ってしまう者は一定数いるらしい。


 ちなみに、グロ画像とはガチャの排出結果が全てLv10が上限のアンデッドモンスターだった時、その写真をYellで呟いた者が#グロ画像と付けて投稿して広まった言葉だ。


 中立派がアンデッドモンスターガチャを運営していた頃は、グロ画像を見るUDSプレイヤーがそこそこいたので、この場で頭を抱えて体をブルブル震わせる者がいても仕方あるまい。


 イベントエリア内が騒がしくなって来たので、宵闇ヤミがヤミんちゅ達にささやかなプレゼントを提示する。


「静粛に。実は、ヤミがデーモンズソフトにお願いした結果、特別に参加する11連ガチャを1回分だけ無料にしてくれるって確約してくれた。しかも、その1回はそれぞれが結果を確定させるまで何度でもやり直しできるの」


「なん…だと…」


「ヤミヤミが天使に見える」


「持つべきものはコネ!」


 先程まではトラウマに苦しむ者もいたが、宵闇ヤミが提示したプレゼントの内容を聞いてイベントエリア内が希望に生まれる。


「更に、ガチャの排出率を特別に調整したから、いつもの倍はレアなアンデッドモンスターが出やすくなったよ! 頑張って当ててね!」


「あ な た が 神 か」


「ヤミヤミ、俺、誇らしいよ」


「今ならレアなアンデッドを引ける気がして来た!」


 ここまで好条件の中でアンデッドモンスターガチャを引けることはないから、どのヤミんちゅ達の目も輝いている。


 なお、やり直し可能な無料ガチャの結果を確定させた後もアンデッドモンスターガチャは回せるが、ちゃんとガチャを回す度にネクロでの支払いが必要になる。


 強いアンデッドモンスターを融合フュージョンするために、融合フュージョン素材の質を選ぶか量を選ぶかはヤミんちゅ達次第だ。


「ガチャフェーズについては以上だよ。次は融合フュージョンフェーズだね。特別にこのイベントエリアではミニゲームのアンデッドラボラトリーに接続できるようになってるから、20分間で提出する融合フュージョンアンデッドを準備してね。提出できるのはこのイベント中に一度でも融合フュージョンしたアンデッドモンスターだけだから注意すること」


 事前に用意していた融合フュージョンアンデッドを提出して優勝したら、ヤミんちゅ杯を開催した意図に反する。


 それゆえ、宵闇ヤミはヤミんちゅ達に当然のことだが念のため伝えておいた。


 言った言わないのやり取りでルールの穴を突く者がいないとも限らないから、こういう注意は事前にしておいた方が後腐れないのだ。


 ヤミんちゅ達がちゃんと頷いているのを確認してから、宵闇ヤミは再び口を開く。


「最後に評価フェーズだね。アンデッドラボラトリーで出た点数を基礎点数として、特別審査員の鬼童丸達がそれぞれ10点満点で評価するよ。だから、評価は130点満点だね。それと、評価フェーズに進めるのは最低でも基礎点数80点以上の融合フュージョンアンデッドだけなの。そうじゃないと、ヤミんちゅ達の参加人数が多過ぎて鬼童丸達が評価し切れないので勘弁してね」


 この運用に異議を唱えるヤミんちゅはいなかった。


 何故なら、ヤミんちゅ杯は宵闇ヤミがヤミんちゅ達をただ楽しませるためではなく、ヤミんちゅ達を楽しませつつ強くするためのものだと彼等自身が理解しているからだ。


 無論、理由はそれだけではない。


 基準点に達しない融合フュージョンアンデッドしか出なかった時、そのまま評価フェーズに出たらプレイヤーではないヤミんちゅやふらっとやって来た視聴者のコメントに刺されるかもしれない。


 強くなろうと思って参加してくれたのに、その意思を踏みにじるような結果にならないよう宵闇ヤミが配慮したのだと参加しているヤミんちゅ達はわかっている。


「そして、評価フェーズの上位3名にはデーモンズソフトから2枚目の量産型カードを配るよ。このイベントで提出した融合フュージョンアンデッドがカードになって具現化するから、カードゲットを目指して頑張ってね。質問はあるかな?」


 特に複雑なルールは設けていないから、ヤミんちゅ達から質問は出なかった。


 イベントエリアにいる全員の心の準備ができたとみなし、宵闇ヤミは合図を出す。


「それじゃあ、ガチャフェーズから始め!」


 イベントエリア上空にホログラムのタイマーが出現し、5分のカウントダウンがスタートする。


 それと同時に、ヤミんちゅ達が一斉に11連アンデッドモンスターガチャを引き始める。


「俺のターン、ドロー!」


「ここで貯めに貯めた幸運を放出する!」


「乱数の女神よ、我に力を!」


 (悪魔がいるなら天使とか神もいるんだろうか?)


 イベントエリアで叫ぶヤミんちゅの声を聞き取り、鬼童丸はそんな疑問を抱いた。


 今までずっと触れて来なかったけれど、悪魔がいるならばそれと対になる天使、更にその上に位置する神がいても不思議ではない。


 それなのに悪魔しか人間に干渉しないものだから、鬼童丸が疑問を抱いた訳である。


 オリエンスなら何か知っているかもと期待したのだが、眠っているのかオリエンスは全く反応しない。


 この疑問が気になって仕方がないと言う訳でもないから、鬼童丸はイベントに集中することにした。


「どうしてだよぉぉぉぉぉ!」


「アイエエエ! グロ画像! グロ画像ナンデ!?」


「俺(の運)は…、弱い!!」


 ヤミんちゅ達の何人かがガチャで爆死して叫んでいる間、それを眺めているだけの配信というのは愉悦勢しか喜ばないから、宵闇ヤミが鬼童丸達に話を振る。


「鬼童丸達がガチャで手に入れた最初のレアなアンデッドモンスターは何かな?」


「俺はリビングダンサーだな。今はリビングフォールンになったけど」


「あぁ、そうだったね。ヤミが爆死した時に引き当ててたよね」


『マスターと私は最初から出会う運命だったんだよね~』


『マスターと最初に出会ったのは私ですね』


 リビングフォールンがきっとドヤ顔で言ったに違いないが、それに対してドラクールが誰も言い返せないとどめを刺した。


 (リビングフォールン、マウント合戦は止めておけ。ドラクール、落ち着くんだ)


『は~い』


『失礼しました』


 鬼童丸がドラクールやリビングフォールンと頭の中で喋っている間、宵闇ヤミは愉悦勢のヤミんちゅ達に配信のコメント欄で大草原を作られていた。


「あーあー、愉悦勢のコメントなんて知らな~い。次はヴァルキリーだね。ガチャでレアなアンデッドモンスターは引き当てられた?」


「デッドリーウルフかしら。今はエンドガルムに進化したわ」


 ヴァルキリーのデッドリーウルフはライカンデスロープに進化し、更にエンドガルムに進化した。


 最終的にヴァルキリーが持つ2枚目のカードとして実体化することになったのだから、レアでありポテンシャルもあるアンデッドモンスターと言えよう。


「良い引きをしてるなんて妬ましい。リバースはどう?」


「俺はデスバルブかな。今はデスレシアになった」


 リバースのデスバルブはデスグラスに進化し、それから今のデスレシアに進化した。


 鬼童丸やヴァルキリーと異なり、リバースはガチャで引き当てたアンデッドモンスターが実体化していない。


 それはガチャでゲットしたデスバルブと比べ、戦闘で倒して手に入れたアンデッドモンスターを素材にした融合フュージョンアンデッドの方が強かったからだ。


 UDSのプレイヤーの多くはリバースと同じく、ガチャよりも戦闘でゲットしたアンデッドモンスターの方が戦力になっているから、リバースの運は平均的なのかもしれない。


 宵闇ヤミは自分のガチャの結果について触れずに5分が経過したが、ガチャの結果が惨敗だったからであることは言うまでもない。

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