第183話 何処の雌馬の骨に魅了されたのよこのボンクラ! 恥を知りなさい!

 アドラメレクと戦っている悪魔は1体だけであり、その悪魔は干からびているくせに豪華なドレスを着た女型悪魔であり、従えているらしきスカルキマイラに騎乗していた。


「何処の雌馬の骨に魅了されたのよこのボンクラ! 恥を知りなさい!」


「失敬な! 俺様の女王様は馬の骨じゃない!」


「チッ、調教済みって訳ね。スカルキマイラ、この阿呆が正気に戻るまで痛めつけなさい」


「失敬な! 俺様はとっくに正気に戻った! バビロン、貴様のようなババアよりも魅力的な女王様を見つけたのだ!」


 (ミストルーパーに視界を共有してもらってて良かった)


 ミストルーパーをアドラメレクの影に忍び込ませたのは、自分達が戦わずして敵の情報を引き出すためだ。


 アドラメレクにはリビングフォールン経由で獄先派の悪魔と全力で戦うように指示を出しており、アドラメレクは孔雀の羽を全開にしてそれを光らせる。


 【混乱光コンフュライト】というアビリティであり、その効果は光を照射された者の体が思っているのと違う部位を動かしてしまうレベルで混乱させるというものだ。


 光を照射されてしまい、バビロンとスカルキマイラは思うように動けずにいる。


 スカルキマイラが予期せぬ動きをしたせいで、バビロンはスカルキマイラの背中から転げ落ちた。


「ハッハッハ! 無様だなバビロン! いや、それがお似合いの姿だったってことか!」


「ぶち殺す!」


 辛うじて喋ることはできるらしく、バビロンは血管が浮かび上がるぐらいアドラメレクに対して激怒した。


 そして、【混乱光コンフュライト】の効果時間が切れた瞬間にバビロンがスカルキマイラを黒い靄に変換し、骨で構成された大砲に変化させてどんどん大砲を放つ。


「消し屑にしてやるわ!」


 キレているバビロンは怒りのままにMPを消費してガンガン魔弾を発射していくが、アドラメレクは毎度変なポーズを取りながら躱して挑発する。


 ミストルーパーの視界を共有されている鬼童丸から見ても、アドラメレクのポーズにイライラするのを禁じ得ない。


「フン、俺様がただ踊ってると思ったか? そんな訳ないだろ! 準備は整った!」


 そう言いながらY字バランスするアドラメレクの背後で、孔雀の羽が広がって光る。


 その直後にアドラメレクとバビロンを巻き込む形で魔法陣が発生し始めたから、ミストルーパーはアドラメレクの影から近くの建物の影に次々に移動して巻き込まれないようにする。


 バビロンに自身の存在がバレたとしても、アドラメレクのやろうとしていることに巻き込まれるよりはマシだから、そう判断しての行動である。


 アドラメレクが発動したのは【乱数呪陣ランダムカース】というアビリティであり、自分を除いて魔法陣の中にいる者にランダムで呪いがかかるようになっている。


 今回発動した呪いはHPを削っていく呪いであり、時間経過によってじわじわとHPが削られていく。


 呪いが解除されるまで呪いの効果は継続するという点で強力だが、【乱数呪陣ランダムカース】を発動するまでに手順があり、羞恥心と戦わなければいけない点が扱いにくい。


「くっ、やってくれたわねこのボンクラ!」


「ハッハッハ! なんとでも言うが良い! ただし、貴様はそれ以下であることは変わりないがな!」


 (アドラメレクの煽り性能が高い)


 危険の及ばない位置でミストルーパーが戦闘を監視しているから、視界を共有している鬼童丸もアドラメレク達がどのように戦っているかよく見ている。


 だからこそ、アドラメレクの煽り性能が高いこともそうだが、バビロンが今にもアドラメレクに噛み付きそうな表情をしているのもちゃんと理解している。


 その時、地獄の門が開く。


 そこからアドラメレクやバビロンとは比べ物にならない気配が生じ、青髪オールバックと入れ墨が特徴的な悪魔が現れる。


「余の命令を無視して遊ぶゴミなど要らん」


 冷たく斬り捨てるような発言が聞こえた直後に、アドラメレクとバビロンの体が2つの薄い水の刃でサイコロカットされた。


 (ミストルーパー、早く戻って来い!)


 青い悪魔が現れたら、鬼童丸はミストルーパーを自分達のいる場所まで撤退するように命じていた。


 そのおかげでミストルーパーは青い悪魔に殺されずに戻って来れたが、青い悪魔はミストルーパーが逃げた先にいる鬼童丸達に気づいており、一瞬にして鬼童丸達の前に現れた。


「貴様が鬼童丸か」


「アリトン」


「余のことを知っているのなら様付けしろ愚か者!」


 突然キレたアリトンから水の刃が発生して鬼童丸に飛ぶが、悪魔形態に戻っていたドラクールが鬼童丸の前に移動して【憤怒竜ラースドラゴン】を使って魔法系アビリティを吸収してMPに変換する。


「マスターはやらせません」


「フン、少しはできるようだな。パイモンとオリエンスに気に入られ、アマイモンを殺したというから見に来たが、まだ余が相手をするまでの実力ではない。貴様等に余の貴重な時間を割くのは勿体ないから、こいつに任せるとしよう」


 アリトンがそう言って指パッチンしたら、アマイモンにそっくりな悪魔が現れて地獄の門が開く。


「アマイモン=レプリカだ。死にたくなかったらせいぜい足掻け」


 それだけ言ってアリトンは地獄に戻って行った。


 地獄の門が閉じてアリトンが消えるのと同時に、アマイモン=レプリカがニヤリと笑う。


「こうして儂とお主が顔を合わせているということは、オリジナルは死んだのだろう。ならば、改めて挨拶せねばなるまい。ようこそ獄先派の日野市へ。申し遅れましたな。儂の名はアマイモン=レプリカ」


「オリジナルとちょっと挨拶が違うんだな」


「仕方あるまい。儂はアリトンに調整されたレプリカなのだ。全てそっくりそのままとはいかぬさ」


「レプリカねぇ。アリトンはアマイモンを量産する気か?」


 元四大悪魔をレプリカとして量産できるなら、獄先派の勢力は急激に強くなるだろう。


 まともに答えてもらえるとは思っていないが、質問するぐらいならタダなので鬼童丸はアマイモン=レプリカに訊ねてみた。


「量産体制は整っていないさ。儂はレプリカの中でもプロトタイプ。アリトンはお主と儂の戦いのデータを取り、オリジナルと同じ、いや、オリジナルを超える個体を創り出すつもりだよ」


「そうか。その話を敵である俺にあっさり教えてくれるのは何故だ?」


「決まっておろう。殺すのは容易いからだ」


 アマイモン=レプリカがそう告げた瞬間、鬼童丸達はアマイモン=レプリカが瞬時に創り出した石畳の舞台の上にいた。


「さあ、ゲームをしようじゃないか。チップはお主と従魔の命。勝てば報酬として儂の全てがお主の物だ。儂と戦う従魔を1体選べ」


 1体じゃなくて全ての従魔で戦いたかった鬼童丸だけれど、召喚するコマンドが封じられていたため、アマイモン=レプリカの言う通りにドラクールかリビングフォールン、ミストルーパーのいずれかでアマイモン=レプリカと戦わなければならない。


「ゲームは何をするんだ? いつもはアンデッドポーカーだったけど今日は違うのか?」


「残念ながら儂はギャンブルで戦えないように調整されている。つまり、儂とこの舞台の上でガチンコ勝負をするのだ」


「マスター、私がやります」


「そうだな。ドラクールに任せる」


 リビングフォールンとミストルーパーは1対1の戦闘には向かないから、鬼童丸はドラクールをアマイモン=レプリカと戦わせる判断を下した。


 石畳の舞台にはドラクールとアマイモン=レプリカだけが残り、鬼童丸達は舞台を降りてその戦いを見守る。


「ドラクール、マスターは私とミストルーパーで守るから遠慮しないでやっちゃって~」


「助かります。レプリカとはいえ、手加減して勝てる相手とは思えませんので」


「フォッフォッフォ。お主の力を過信してもらっても構わんぞよ? ほれ、儂なんてギャンブルばかりしている老悪魔だ」


「ギャンブルばかりしていたのはオリジナルですし、そもそもそちらはギャンブルを封じられているじゃないですか。油断なんてできるはずないでしょう」


 まったくもってドラクールの言う通りだ。


 アリトンが調整している時点で、アマイモン=レプリカはアマイモンと似て非なる敵だ。


 ギャンブルを楽しんでいたアマイモンだと思って戦えば、酷い目に遭うのは自分なのでドラクールは気を引き締めている。


 急に風が吹いたのを合図として、ドラクールとアマイモン=レプリカが同時に動き始めた。

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