第176話 掌の上で踊らされる者が足掻くのを見ながら飲むワインって美味しいでしょ?
翌日の水曜日、特に
寧々に付き合って昼休みに行ってみたお店でもトラブルはなく、久遠は久し振りに穏やかな平日を過ごせた。
今日はデーモンズソフトの案件で宵闇ヤミとのコラボ配信もないから、自分のペースでUDSを楽しもうと思ってログインしたその時、鬼童丸は地獄の闘技場にいた。
(穏やかな日常なんて嘘だったんだ)
そんな風に思って溜息をつく鬼童丸の前に、赤いドレスを着たオリエンスが仁王立ちしていた。
「退屈だわ。妾を楽しませなさい」
「横暴じゃね?」
「パイモンから許可は取ったわ。ほら」
オリエンスがトーキングレターを懐から取り出せば、トーキングレターは宙に浮かんでパイモンの声で手紙の内容を喋り出す。
「この手紙が読まれている頃、きっと鬼童丸はオリエンスに拉致されているだろう。だからこそ、敢えて言おう。おとなしくオリエンスの相手をしてほしいと! 以上!」
「喧しいわ!」
勿論、このツッコミがパイモンに届くことはないから、声量を上げてツッコんだのは鬼童丸の自己満足にしかならない。
そうだとしても、オリエンスを楽しませるなんて苦労する未来しか見えないのだから、大声でツッコむことぐらい別に構わないだろう。
深呼吸して落ち着いたら、鬼童丸はオリエンスに訊ねる。
「やれやれ。楽しませろって言ってたけど、何か持ち込んで来たネタはあるの?」
「よく聞いてくれたわね。実は、獄先派の拠点に潜入して強そうなアンデッドモンスターを拝借して来たのよ。だから、鬼童丸は命がけでそいつと戦いなさい」
しれっと獄先派の戦力を奪っているという事実もそうだが、後半の物騒な発言に鬼童丸は驚いて顔が引き攣ってしまう。
「俺達の苦戦する姿を見て楽しむんじゃねえ」
「掌の上で踊らされる者が足掻くのを見ながら飲むワインって美味しいでしょ?」
「悪魔か。いや、悪魔だったわ」
いつの間にかボトルとグラスを用意しているオリエンスを見て、鬼童丸はオリエンスが悪魔であることを再認識した。
オリエンスの指パッチンと共に、闘技場の奥の檻が開いてその中からスカルマンティコアが現れた。
「
ここが地獄だから、召喚で来たのはドラクールとリビングフォールン、ヨモミチボシ、アビスドライグの4体だけだ。
上の歯と下の歯を連続してカチカチ鳴らすことにより、鬼童丸達を包囲するように小規模の爆発も次々に発生する。
本来は鬼童丸達も爆発に巻き込まれていたのだが、ドラクールが【
「リビングフォールンは【
「は~い」
「わかったでござる!」
リビングフォールンのおかげで味方全体にバフ、スカルマンティコアにデバフがかかる。
その状態でアビスドライグの【
これにはスカルマンティコアのヘイトが溜まり、アビスドライグに向けられるヘイトが全てヨモミチボシの【
「ヨモミチボシ、【
「承知しました」
「ドラクール、【
「お任せ下さい」
倒れて立ち上がれないスカルマンティコアの脳天にドラクールの【
カードになったスカルマンティコアを倒した鬼童丸達を見て、上空でワインを飲むオリエンスは退屈そうに喋り出す。
「やっぱりスカルマンティコアだけじゃ駄目ね。前座にしかならないもの。もう1体拝借しといて良かったわ」
オリエンスが指パッチンしたら、先程スカルマンティコアが出て来た檻の奥からバタフライマスクを着けてスコップを装備した怪盗が現れた。
肌は病的に蒼白いが、すらりとした見た目で華美な衣装なのでスコップだけが異質である。
「トゥームレイダーはスカルマンティコアと違って簡単に倒せないはずよ。今度はちゃんと楽しませてね」
(嬉しくない情報をどーも。人型アンデッドならこちらの言うことを理解するかもしれないし、指示は全部念じて伝える。リビングフォールン、【
リビングフォールンが【
それは目を瞑って動かないというもので、【
トゥームレイダーはスコップを構えて何かアビリティを発動しようとしたが、まだ魅了状態だったので行動できずに固まっていた。
(ヨモミチボシ、【
見られないと効果が半減する【
そのおかげで、トゥームレイダーは重力が過剰にかかった上に沈黙状態にされてしまった。
このタイミングで魅了状態は解けてしまったけれど、沈黙状態にされればアビリティは使えないから、鬼童丸の狙いは上手くいったと言えよう。
(アビスドライグ、【
動きの鈍いトゥームレイダーはただの的だから、アビスドライグの【
体に風穴が空いたトゥームレイダーだが、沈黙状態になっているので仮に【
この隙に畳みかけないのは勿体ないから、鬼童丸はドラクールに指示を出す。
(ドラクール、【
ドラクールが
しかし、その割にはダメージが浅くて鬼童丸は首を傾げる。
「ドラクールの渾身の一撃だぞ? これで残りHPがようやく半分を切ったっておかしくね?」
何かおかしいと観察した結果、鬼童丸は先程まであったのに今はなくなった物があると気づいた。
「…スコップがない」
「その通りです。トゥームレイダーですが、私が殴る瞬間にスコップを体の前に差し込んで盾にしたのです。そのせいでダメージの通りが悪かった訳です」
武器であるスコップを壊せたのは鬼童丸にとってプラスだけれど、ドラクールの渾身の一撃の成果が武器破壊とそこそこのダメージだったという事実を知り、鬼童丸はトゥームレイダーへの評価を上方修正した。
そして、スコップが壊れたことでトゥームレイダーの体が膨張して装備が弾け飛び、赤い褌一丁で赤銅色に体を輝かせたオーガに姿が変わる。
この状態になったトゥームレイダーは状態異常がリセットされており、【
こうなったら信じるものは己の肉体のみということなのか、トゥームレイダーは【
アビスドライグには【
「リビングフォールン、【
(リビングフォールン、こっちが本当の指示だ。【
鬼童丸の言葉を理解しているらしく、トゥームレイダーは両腕を顔の前に構えて目を閉じた。
それを逆手に取り、鬼童丸はリビングフォールンに正しい指示を念じて伝えたから、リビングフォールンは目を閉じているトゥームレイダーに【
ここまでやれば別に指示を聞かれても構わないので、鬼童丸は口頭で指示を出していく。
「ヨモミチボシ、【
鬼童丸の指示通りに事が進み、ドラクールの攻撃がとどめになってトゥームレイダーは力尽きた。
その直後にパイモンの声が鬼童丸の頭に直接響き始める。
『アビスドライグがLv80からLv86に成長しました』
『リビングフォールンがLv86からLv90に成長しました』
『ヨモミチボシがLv82からLv88に成長しました』
ドラクールはLv100に到達しているから、これ以上レベルアップしない。
その分の経験値が残り3体に分配されている。
戦闘を終えた鬼童丸達がいる地上にオリエンスが降り立つ。
「まあまあの見世物だったわ。次も妾を楽しませなさい」
それだけ言った後、オリエンスが指パッチンして鬼童丸達は新宿区の都庁に強制転移させられていた。
(次はなくても良いんだよなぁ)
精神的に疲れたため、鬼童丸はドラクール達に労いの言葉をかけてから生産系デイリークエストを済ませてログアウトした。
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