第168話 変形タイムに何もしないと思ったら大間違いだ

 外での襲撃はなかったから、久遠は夕食を取って風呂に入った後にUDSへログインする。


 都庁でログインして生産系デイリークエストをサクッと終わらせていると、タナトスが鬼童丸に駆け寄る。


「鬼童丸、冥開の飛び地に獄先派が襲撃を仕掛けようとしてる」


「マジで?」


「飛び地とはいえ、冥開の領土を奪ったとなれば獄先派が勢いづいてしまう。是が非でも死守するのだ」


 次の瞬間、鬼童丸の正面にチャレンジクエストが表示された。



-----------------------------------------

チャレンジクエスト:冥開(飛び地)を死守せよ

達成条件:侵攻して来た獄先派を蹴散らす

失敗条件:使役するアンデッドモンスターの全滅か冥開(飛び地)を占領される

報酬:覚醒の札

-----------------------------------------



「タナトス、覚醒の札って何?」


「ドラクール達が現世でもUDSや地獄と同じ姿になれるアイテムだ。ただし、使えばUDSでは普通の従魔ではなく守護悪魔となる」


「守護悪魔? 従魔と違うけど味方ではあるんだよな?」


「勿論だ。私とベルヴァンプのような関係性になる」


 タナトスとベルヴァンプの関係性がどのようなものか詳しくはわからないが、両者の仲は良好だったため鬼童丸はひとまず覚醒の札について考えるのを中断し、飛び地へと向かう。


 飛び地に向かい次第、宵闇ヤミに今日のコラボ配信は獄先派撃退のチャレンジクエストを受けるからそちらを優先するとチャットで告げたところ、宵闇ヤミは鬼童丸にすぐに合流すると返答した。


 実際にその通りであり、宵闇ヤミは数分の内に鬼童丸と合流した。


「緊急企画、獄先派を倒してみよ~!」


「ヤミ?」


「私も同じチャレンジクエストをヘカテーから貰ったし、折角だから配信してみようかなって」


「そうか」


 もしかすると、今後も似たような襲撃を他のプレイヤーが受けるとも限らないので、鬼童丸は注意喚起の手間が省けると考えて宵闇ヤミの配信での中継を認めた。


 埼玉県加須市から茨城県古河市に向かって獄先派は来ており、鬼童丸と宵闇ヤミは古河市の県境で獄先派の大群を目にした。


「「召喚サモン:オール」」


 鬼童丸も宵闇ヤミもフルメンバーを召喚し、乱戦モードの戦闘で獄先派閥の大群の迎撃を始める。


 コメント欄にいるヤミんちゅ達は応援のスーパーチャットを送っており、近くに自分の統括エリアがあるプレイヤーは参戦しに行くとコメント欄に投稿して配信の視聴を中断する者もいた。


 コマンド入力で鬼童丸が行動を指示することで、ドラクール達は効率的に動き出す。


 リビングフォールンが【栄光舞踏グロリアダンス】で味方全体へのバフと敵全体へのデバフを与え、アビスドライグが【暴君重力タイラントグラビティ】で敵全体にデバフと3倍の重力を与えた。


 おまけにメディーパが【倦怠波動アンニュイインパルス】を使えば、敵全体の動きがほとんど止まっているに等しく、抵抗する気力も削れていく。


 その状態でドラクールが【深淵支配アビスイズマイン】で深淵のレーザーを放って薙ぎ払い、それからビヨンドカオスの【緋霊天墜スカーレットダウン】、ヨモミチボシの【憎悪砲弾ヘイトシェル】、イミテスターの【不幸爆発バッドエクスプロージョン】、ミストルーパーの【螺旋水線スパイラルジェット】、ダイダラボッチの【極限踏撃マキシマムスタンプ】、ベキュロスの【地獄火炎ヘルフレイム】を放てば、敵軍の数が百単位で消えていった。


 ところが、厄介なことに倒されたアンデッドモンスター達は黒い靄に変換され、敵軍の残党の後方に光るヘルストーンに吸い込まれて地獄の門を開くから、地獄からどんなアンデッドモンスターを呼び出すのか怖いところだ。


 何かが地獄の門から現れた直後に、鬼童丸達にとって迷惑なアナウンスが届く。


『掃除屋グレイブヤードが加須市に現れました』


 そう聞こえた直後に、加須市に広がる戦場に深淵が広がり、地上に残っていた雑魚モブアンデッドモンスターを飲み込み、その中から大きな墓地が浮上した。


 (今回の掃除屋ってエリア型モンスターってこと?)


 グレイブヤードは巨大な墓石が縦4×横4で並んだ墓場という外見で、1列目の墓石4つがガーゴイルへと変形する。


「鬼童丸、ヘルストーンによって現れたアンデッドモンスターはヤミに任せて!」


「わかった。よろしく頼む」


 一度の指示で鬼童丸が多くの敵を蹴散らしてしまい、まだ活躍できていない宵闇ヤミはヘルストーンによって現れたはずのアンデッドモンスターは自分が倒すと言った。


 コメント欄のヤミんちゅ達は、「もう全部鬼童丸だけで良いんじゃないか」なんてコメントを投稿していたが、宵闇ヤミだって鬼童丸の隣に立って戦えるんだと証明したいから、そのようなコメントに対して行動で抗議したのだ。


 宵闇ヤミには現れた敵を任せられるだけの実力があると判断し、鬼童丸はそちらを宵闇ヤミに任せて自分はグレイブヤードとそれが呼び出したガーゴイル達との戦闘に集中する。


 ガーゴイル1体につき、ドラクールとメディーパを抜いた8体の従魔を2体ずつのペアにして、アビスドライグとミストルーパー、リビングフォールンとベキュロス、ヨモミチボシとダイダラボッチ、ビヨンドカオスとイミテスターをそれぞれのガーゴイルと戦わせた。


 2体の内どちらか1体は少なくとも火力のある従魔だから、ガーゴイルに勝ち目なんてなくてあっさりと砕かれてしまう。


 通常のガーゴイルなら倒れればカードになるのだが、グレイブヤードが召喚したガーゴイルは力尽きてもカードにならずに黒い靄になってグレイブヤードに取り込まれるだけだ。


 残る12個の墓石で3セットの戦闘をするのも面倒だから、久遠はドラクールに指示を出す。


「ドラクール、憤怒鬼竜棍ラースオブドラクールに【深淵支配アビスイズマイン】で深淵コーティングしたら、グレイブヤードの地面に【憤怒打撃ラースストライク】だ」


「かしこまりました」


 鬼童丸の指示に従い、ドラクールが全力をもってグレイブヤードの体を構築する地面を憤怒鬼竜棍ラースオブドラクールで殴りつければ、その衝撃波で残り12個の墓石が一気に破壊された。


 (圧倒的じゃないかドラクールは)


 一気に12個の墓石が破壊されたら、グレイブヤードに変化が生じる。


 グレイブヤードが大きく揺れ始め、深淵がグレイブヤードを包みこもうと地面から湧き出す。


「総員退避! この深淵に触れるな!」


 何か嫌な予感がして鬼童丸がそのように指示を出せば、ドラクール達は深淵に触れずにグレイブヤードの上から後退する。


 深淵がグレイヴヤードを包み込んだら、グレイヴヤードがゴゴゴゴと音を立てて変形し始める。


「変形タイムに何もしないと思ったら大間違いだ」


 人によっては変形後の姿を見るため、敵の変形タイムに手を出さない者もいるが鬼童丸は違う。


 敵を叩ける時に叩くのが鬼童丸だ。


 コマンド入力により、グレイヴヤードに対してドラクール達が総攻撃を仕掛ける。


 その結果、グレイヴヤードを包み込んでいた深淵が膨れ上がってから消えた。


 消えた深淵の中から巨大な石像が現れ、その石像はクエイクドラゴンゾンビを模していた。


 この変身は【復讐変身リベンジトランス】によるものであり、アビリティの効果は敵が倒したことのあるアンデッドモンスターの姿に変身できるというものだ。


 変身時に能力値は敵が倒した個体の110%になり、更に使えるアビリティも変身したアンデッドモンスターと同じになる。


 つまり、今のグレイヴヤードは前に鬼童丸が倒したクエイクドラゴンゾンビのパワーアップバージョンと考えて良い。


「仕切り直しだ」


 そう言って鬼童丸はコマンド入力し、リビングフォールンに【栄光舞踏グロリアダンス】、アビスドライグに【暴君重力タイラントグラビティ】、メディーパに【倦怠波動アンニュイインパルス】を使わせた。


 これで味方全体へのバフとグレイヴヤードへのデバフと状態異常が与え続けられ、鬼童丸が有利な展開を継続させられる。


 いくらグレイヴヤードが【復讐変身リベンジトランス】でパワーアップしたとしても、残りHPが半分以下まで減っているから、バフやデバフでアビリティを使っていない7体の従魔の総攻撃を受ければ、グレイヴヤードは力尽きた。


 (あれ、システムメッセージが来ない? あぁ、まだあっちの戦闘が終わってなかったか)


 掃除屋であるグレイヴヤードを倒したから戦闘を終えた気になっていた鬼童丸だったが、まだ宵闇ヤミがヘルストーンによって地獄から現れたアンデッドモンスターと戦っているようで戦闘終了とはみなされなかった。


 大量の敵を倒した以上得られる経験値も膨大なはずだから、鬼童丸達は宵闇ヤミに合流するべく移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る