第84話 前門のエリア争奪戦、後門の掃除屋レイドバトルってね

 アナウンス後に現れたコープスキマイラだが、獅子の頭部と山羊の胴体、蛇の尻尾を持つという点は一般的に知られたキマイラだが、他の作品で取り扱われるキマイラと違う点が2つある。


 1つは繋ぎ合わされた獅子と山羊、蛇がいずれも死体であり、腐っているということ。


 もう1つはそのサイズが大型トラックと同程度のサイズということ。


「前門のエリア争奪戦、後門の掃除屋レイドバトルってね」


「聞いてる限りじゃ鬼童丸さん的には前門ガバガバだったと思うけど」


「それはそう。というか、なんで野木町に掃除屋が出るんだ?」


「そいつは俺の責任だ」


 エリア争奪戦で敗れたヤサーイ王子が話の輪に入る。


 鬼童丸は責任という言葉から状況を察した。


「なるほど。まだ野木町は安全地帯じゃなかったのか」


「野木町で実験をしてたのさ。安全地帯にせずアンデッドモンスターを狩り尽くさずに放置した場合、他のプレイヤーに邪魔されない狩場ができるかってな。まあ、その実験は失敗して賭けの対象にしちまった訳だが」


「戦略的には妥当だけどヤサイの星の王子のプライドはないの?」


 鬼童丸のナイフのような一言を受け、ヤサーイ王子は唸った。


「うっ、瑕疵のある土地を譲渡したことは悪いと思ってる。だから、貴様らは家に帰ってのんびりミルクでも飲んでやがれ」


「ロールプレイは良いけど宵闇さんに負けて従魔が少ないんだろ? 強がるなって。一緒に戦ってくれるのはありがたいけど」


「畜生、頭に来るぜ。ヤミんちゅに優しいヤミヤミのコラボ相手なんてよぉ。頑張れ鬼童丸…。お前がナンバー1だ」


「もうボケるの止めてくれる? ツッコんでる場合じゃないんだわ」


 ヤサーイ王子のロールプレイが地味にヤミんちゅとしてアレンジされており、そのボケに鬼童丸は少しイラっとした。


 そんなやり取りをしていると、世紀末マイコーがこの場に到着した。


「ヒャッハー! 良いとこどりしに来たぜぇ!」


「ふん、助けに来たと素直に言えぬのか」


「ヒャッハー! 俺様の助けが欲しかったのかぁ!?」


「ごちゃごちゃ煩い。邪魔するならお前達から倒すよ?」


「「はい、すみません」」


 鬼童丸が目の笑っていない笑みを浮かべてそう口にすれば、ヤサーイ王子も世紀末マイコーも悪ノリロールプレイを中断して掃除屋レイドバトルに集中する。


「「「「召喚サモン:オール!」」」」


 鬼童丸達は全ての従魔をこの場に召喚した。


 これから戦うのが掃除屋のコープスキマイラである以上、出し惜しみなんて愚策以外の何物でもないからだ。


 コープスキマイラはアビスライダーに狙いを定め、【暗黒火炎ダークネスフレイム】を放つ。


「レギネクス、アビスライダーを庇え」


 鬼童丸の指示により、レギネクスがアビスライダーの代わりに【暗黒火炎ダークネスフレイム】を喰らった。


 ドラクールに庇わせて【魔法吸収マジックドレイン】を発動させるべきだったが、レギネクスの【炎吸収フレイムドレイン】が発動するかどうか確かめるための指示であり、鬼童丸の予想通りレギネクスはダメージを受けた。


 (やはり複合属性だと【炎吸収フレイムドレイン】の対象外か!)


「ドラクール、レギネクスを癒してくれ」


「仰せのままに」


 ドラクールは【深淵支配アビスイズマイン】を発動してレギネクスを深淵で優しく包み込み、ダメージを回復させた。


 万能な【深淵支配アビスイズマイン】に感謝しつつ、鬼童丸はいつも通りのセットコマンドを使う。


 リビングフォールンの【栄光舞踏グロリアダンス】とアビスライダーの【絶望放気ディスペアオーラ】により、味方全体の能力値を上げてコープスキマイラの能力値を下げる。


 更にヨモミチボシの【沈黙霧サイレントミスト】で沈黙状態にして、デスマスクラウンの【麻痺賽子パラライズダイス】でコープスキマイラに麻痺状態も被せようとする。


 ところが、【沈黙霧サイレントミスト】と【麻痺賽子パラライズダイス】は効きが悪くて鬼童丸の望む展開にはならなかった。


 続けてレギネクスの【緋霊降雨スカーレットレイン】とフロストパンツァーの【氷結砲弾フリーズシェル】、ドラクールの【破壊打撃デストロイストライク】が命中したが、コープスキマイラのHPは3割減ったかどうかだ。


 (硬いな。しかも、状態異常が効きにくいと来た)


 鬼童丸以外のプレイヤーも従魔に命じて攻撃しているが、まともにダメージを入れられているのは宵闇ヤミだけであり、ヤサーイ王子と世紀末マイコーはカスダメしか与えられていない。


 コープスキマイラはアビスライダーを狙って【破壊突撃デストロイブリッツ】を使う。


「無駄なことを」


 その攻撃は鬼童丸が口にした通りで無駄に終わる。


 何故なら、【磁霊化マグネストアウト】の効果でアビスライダーは霊化してただの物理攻撃を擦り抜けたからだ。


 無論、そうなることを見越してアビスライダーの後ろにデスマスクラウンを配置しており、コープスキマイラの【破壊突撃デストロイブリッツ】でデスマスクラウンはHPギリギリまでダメージを負う。


 その直後に【苦痛反撃ペインリベンジ】が発動し、デスマスクラウンの反撃がコープスキマイラに命中した。


 それにより、デスマスクラウンが受けたダメージは増幅されてコープスキマイラに与えられる。


 宵闇ヤミもペースアップしたことで、コープスキマイラの残りHPが半分を切り、コープスキマイラの体が赤く変色する。


 コープスキマイラにかかっていたデバフがリセットされてしまい、セットコマンドを使って鬼童丸は味方へのバフとコープスキマイラにデバフをかけ直した。


「来るぞ! 【暗黒火炎ダークネスフレイム】だ! ドラクール、アビスライダーを守れ!」


「かしこまりました」


 コープスキマイラはアビスライダーを狙って複合属性の暗い炎を放つから、鬼童丸はドラクールの【魔法吸収マジックドレイン】でその攻撃を吸収させた。


 その隙にセットコマンドを用い、鬼童丸はコープスキマイラに集中攻撃を行う。


 赤く染まったコープスキマイラはVITの数値が落ちてSTRとAGIが上がっているから、コープスキマイラへのダメージが通りやすくなっている。


 それゆえ、今の攻撃で一気にコープスキマイラのHPが残り2割まで削り取られた。


「ヤミだって!」


 宵闇ヤミもセットコマンドで最大火力の攻撃を放ち、コープスキマイラのHPは残り1割を切った。


 それと同時にコープスキマイラの肌が真っ黒になり、能力値がHPとMPを除いて1割ずつ上昇する。


 こうなってしまえば、ヤサーイ王子と世紀末マイコーはカスダメすら与えられなくなってしまい、いよいよ見ているだけになってしまった。


 コープスキマイラは【爆轟空間デトネスペース】で自身を中心とした空間のあちこちで轟音のする爆発を連発したが、間一髪でドラクールがHPを回復したデスマスクラウンが【苦痛集中ペインコンセントレイト】でダメージの大半を肩代わりし、すぐさま【苦痛反撃ペインリベンジ】でコープスキマイラに反撃してHPを削り切った。


『鬼童丸がLv81からLv84まで成長しました』


『鬼童丸の称号<掃除屋殺し>が称号<獄先派の天敵>に上書きされました』


『ドラクールがLv22からLv26まで成長しました』


『ドラクールの【物理耐性レジストフィジカル】が【物理半減ディヴァイドフィジカル】に上書きされました』


『アビスライダーがLv18からLv22まで成長しました』


『アビスライダーの【呪雷撃カースサンダー】が【呪紫雷撃カースボルテクス】に上書きされました』


『リビングフォールンがLv10からLv16まで成長しました』


『リビングフォールンの【暗黒応援ダークネスエール】が【深淵応援アビスエール】に上書きされました』


『レギネクスがLv8からLv14まで成長しました』


『レギネクスの【炎吸収フレイムドレイン】が【魔法吸収マジックドレイン】に上書きされました』


『フロストパンツァーがLv8からLv14まで成長しました』


『フロストパンツァーの【氷結砲弾フリーズシェル】が【氷結砲フリーズバースト】に上書きされました』


『ヨモミチボシがLv8からLv14まで成長しました』


『ヨモミチボシの【沈黙霧サイレントミスト】が【沈黙空間サイレントスペース】に上書きされました』


『デスマスクラウンがLv10からLv20まで成長しました』


『デスマスクラウンの【麻痺賽子パラライズダイス】が【麻痺爆弾パラライズボム】に上書きされました』


『コープスキマイラを1枚手に入れました』


 (わかってたけど戦わせた従魔が多いとメッセージも多い)


 まず、<掃除屋殺し>が<獄先派の天敵>に上書きされたのは見過ごせない。


 <獄先派の天敵>の効果だが、掃除屋に加えて獄先派に属する敵との戦闘でも能力値が125%になる。


 次に従魔だが、掃除屋レイドバトルということで全ての従魔が強くなった。


 基本的にどの従魔のアビリティも上位互換になっている。


 ドラクールの【物理半減ディヴァイドフィジカル】は物理攻撃によるダメージが半減する効果を持つ。


 アビスライダーの【呪紫雷撃カースボルテクス】とフロストパンツァーの【氷結砲フリーズバースト】、デスマスクラウンの【麻痺爆弾パラライズボム】はそれぞれアビリティの威力が上がった。


 リビングフォールンの【深淵応援アビスエール】は味方全体に深淵を付与し、能力値を1割上げる効果がある。


 ヨモミチボシの【沈黙空間サイレントスペース】は霧じゃないから吹き飛ばされなくなり、指定した空間にいる者が沈黙状態になる。


 鬼童丸がシステムメッセージの内容を確認し終えたことを察し、宵闇ヤミは鬼童丸に近づいた。

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