第83話 戦争に汚ねえもクソもあると思うか!?

 宵闇ヤミは野木町の拠点である野木ホフマン館に向かう途中、システムアナウンスを耳にする。


『鬼童丸によって世紀末マイコーが倒されました』


「早っ!? まだヤミはヤサーイ王子と会えてないのに!?」


【配信に映ってないからどんな戦いだったか見れない悲しみ】


【鬼童丸は配信者じゃないんだから仕方ないさ】


【世紀末マイコーはエリア争奪戦の敗北者じゃけえ】


 まだ自分はヤサーイ王子と会えていないのに、鬼童丸がきっちりと自分の仕事を終わらせていることに宵闇ヤミは焦りを感じた。


 コメント欄ではヤミんちゅ達がどんな戦いだったのか気にする声ばかりだったが、宵闇ヤミも鬼童丸と世紀末マイコーがどのように倒されるのか気になった。


 そうは言っても今集中すべきは自分の戦いだから、宵闇ヤミは自分を肩に乗せて動くゲイザリオンに指示して野木ホフマン館への移動を急がせる。


 数分後に到着した野木ホフマン館では、ヤサーイ王子がデスケアネクロとレイストマトを召喚して待っていた。


 デスケアネクロとは、新人戦の決勝トーナメントで召喚したデスケアクロウの進化した姿であり、禍々しいオーラを放った赤黒い案山子の見た目をしている。


 それと肩を並べるレイストマトだが、ゴーストマトと呼ばれる幽霊系アンデッドモンスターの進化した姿で、物理攻撃が一切効かない。


「遅かったじゃないか宵闇ヤミ。待ち草臥れて畑仕事に行くところだったぜ」


「待っててくれてありがと~。早速準備するね。召喚サモン:トリックウィスプ」


「ここからが本当の地獄だ」


「うん? 地獄の門は何処にも開いてないけど?」


 元ネタを知らない宵闇ヤミに対し、自分のロールプレイが空回りしたことに気づいたヤサーイ王子がセットコマンドで攻撃を仕掛ける。


 デスケアネクロが【破壊鉤爪デストロイネイル】でレイストマトが【岩棘ロックソーン】を発動する手はずだったが、次の瞬間にはデスケアネクロとレイストマトがお互いに攻撃し合っていた。


「なん…だと…!?」


「フッフッフ。トリックウィスプがいるんだから、【座標交換シャッフル】を警戒しなきゃ駄目じゃん。ちゃんとヤミの配信見てくれてた?」


 宵闇ヤミはトリックウィスプに【座標交換シャッフル】を使うようセットコマンドを使い、トリックウィスプとレイストマトの位置を瞬時に交換した。


 更にゲイザリオンの【猛毒眼ヴェノムアイ】がデスケアネクロに命中し、デスケアネクロは猛毒状態に陥った。


「まずはゲイザリオンだ! ゲイザリオンから倒せ!」


 セットコマンドを使いつつ、邪魔なゲイザリオンを倒せと指示するヤサーイ王子だが、再びトリックウィスプがレイストマトと自身の位置を入れ替えて味方を攻撃させる。


 加えてゲイザリオンが【猛毒眼ヴェノムアイ】でレイストマトを猛毒状態にすれば、配信を視聴しているヤミんちゅ達は宵闇ヤミの作戦に気づいた。


【害悪! 圧倒的害悪!】


【配信中にここまで酷いことする奴いるぅ? いねえよなぁ!】


【こwれwはwひwどwい】


 ゲイザリオンのアビリティで敵アンデッドモンスターを両方共猛毒状態にして、トリックウィスプの【座標交換シャッフル】で時間を稼ぐ害悪戦法にヤミんちゅ達はコメ欄で騒ぎ出す。


 そんなコメント欄をゲームプレイ中は見えないはずだが、ヤサーイ王子はタイミングばっちりに口を開く。


「戦争に汚ねえもクソもあると思うか!?」


「そうだよ! 勝てば官軍って言葉があるんだよ! ん? なんでヤサーイ王子がコメント欄の様子を把握してるの?」


 宵闇ヤミはヤサーイ王子がタイミング良くした発言に違和感を覚えた。


 配信する場合はゲームしながら配信画面を見られるようになっているが、ヤミんちゅ達はゲーム中に配信画面を見られないことに気づけば当然である。


 猛毒で時間経過による継続ダメージを受け、味方同士の攻撃でダメージを蓄積すれば先にHPの低いレイストマトが力尽きた。


 その後、デスケアネクロは必至に攻撃するけれど、トリックウィスプの【座標交換シャッフル】でまともに戦わせてもらえず、1分後にはデスケアネクロも力尽きた。


『宵闇ヤミによってヤサーイ王子が倒されました』


『戦えるプレイヤーがいなくなったことにより、鬼童丸の勝ちでエリア争奪戦が終了しました』


『野木町が鬼童丸に移譲されました』


『宵闇ヤミがLv80に到達しました』


『宵闇ヤミが称号<腹黒策士>を獲得しました』


『ゲイザリオンがLv11からLv14まで成長しました』


『トリックウィスプがLv69からLv75(MAX)まで成長しました』


『宵闇ヤミが称号<掃除屋殺し>を保持した状態でトリックウィスプがレベル上限に達したため、トリックウィスプがデモンズランプに特殊進化しました』


『デモンズランプが【呪纏炎カースフレイム】を会得しました』


『デスケアネクロとレイストマトを1枚ずつ手に入れました』


 デモンズランプの見た目は悪魔を模ったランプであり、中には紫色の炎が灯っている。


 (なんかサラッとディスられた気がするけど、先にデモンズランプのステータスチェックをしよう)



-----------------------------------------

種族:デモンズランプ Lv:1/100

-----------------------------------------

HP:6,000/6,000 MP:6,000/6,000

STR:5,500 VIT:6,000

DEX:6,500 AGI:6,000

INT:6,000 LUK:6,000

-----------------------------------------

アビリティ:【混乱半球コンフュドーム】【贋作イミテーション

      【憎悪強奪ヘイトスティール】【深淵回復アビスヒール

      【座標交換シャッフル】【呪纏炎カースフレイム

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (これは害悪。まごうことなき害悪)


 トリックウィスプだった頃は、デバフと回復と配置の入れ替え等の最初に倒すべきアンデッドモンスターだったが、まだ攻撃できるアビリティがなかったから他のアンデッドモンスターがいないと運用が難しかった。


 ところが、【呪纏炎カースフレイム】を会得したことでダメージも与えられるようになったから、本格的に見つけたら即座に倒すべきアンデッドモンスターになってしまった。


 エリア争奪戦が終わったところでご祝儀のスーパーチャットがコメント欄に連投され、宵闇ヤミはそれに感謝してから野木ホフマン館に来た鬼童丸と合流する。


「鬼童丸さん、ヤサーイ王子さんを倒したよ」


「そうらしいな。おめでとう」


「それと従魔が進化したから見て。はい、デモンズランプ」


「うん、悪意の塊だな」


「だよね~」


 鬼童丸の言い分に対し、宵闇ヤミは否定できなかった。


 むしろ、鬼童丸は自分の配信を気にしてマイルドな表現をしてくれたとさえ思うレベルだ。


「そういえば、鬼童丸さんの方はどれぐらいレベルアップしたの? ヤミはLv80になって、ゲイザリオンがLv14、今見てもらったデモンズランプがトリックウィスプから特殊進化したけど」


「俺はLv81になって、アビスライダーはLv18になったぞ」


 (あれ、聞き間違えたかな?)


 宵闇ヤミは鬼童丸の言葉を聞き洩らしたのではないかと思って訊ねる。


「ごめん聞き間違えちゃったかも。アビスライダーだけ? もう1体はどうしたの?」


「ん? アビスライダーしか使ってないけど?」


「嘘でしょ!?」


「マジだけど」


 (聞き間違えてなかった。世紀末マイコーさん、鬼童丸さんのアビスライダーにあっさりしてやられたんだね…)


 衝撃の事実を受け、コメント欄に張り付いているヤミんちゅ達も驚きを隠せないでいた。


【世紀末マイコー、お前、ムチャシヤガッテ】


【鬼童丸強過ぎて草】


【ドラクールを使わずに1対2で勝つって何事?】


 もう1つ気になったことがあり、宵闇ヤミは鬼童丸に質問する。


「鬼童丸さんはエリア争奪戦で称号って手に入れた?」


「<圧倒する野木町長>って称号が手に入った。野木町限定だけど、敵の数が味方よりも多ければ多い程能力値が上がるってさ。宵闇さんは?」


「誠に遺憾ながら<腹黒策士>って称号が手に入った。支援系のアビリティに補正が入るってさ」


「あぁ、なるほどねー」


「お? 何か言いたいことがあるなら聞くよ? ヤミ、心広いから言ってごらん?」


【ソーナノ?】


【鬼童丸に女の陰がちらついただけでヤンデレムーブかますじゃん】


【草】


 コメント欄では、ヤミんちゅ達の宵闇ヤミの発言に疑問を呈するコメントがしばらく投稿された。


 その時、宵闇ヤミと鬼童丸の耳に予定外のアナウンスが届く。


『掃除屋コープスキマイラが野木町に現れました』


 どうやらエリア争奪戦の次は掃除屋レイドバトルのようだ。

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