第78話 それでも、ヤミは鬼童丸さんの隣にいたいの!

 鬼童丸がタナトスと模擬戦をするのを見て、宵闇ヤミは自分もやりたいと思った。


 それはハイレベルな従魔同士の戦いが目の前で繰り広げられ、自分も戦いたいと素直に感じたのもそうだが、このままではいずれ鬼童丸に足手纏い扱いされてコラボ配信をしてもらえなくなるという焦りもあったからだ。


 ヘカテーは宵闇ヤミの思考を読んだのか、宵闇ヤミに話しかける。


「私達も模擬戦する?」


「する!」


 【模擬戦きちゃ! (決闘代:1,000円)】


 【頑張れ♡ 頑張れ♡ (愉悦代:1,000円)】


「ちょっと! 決闘代と愉悦代って並んで良いものじゃないでしょ!?」


 宵闇ヤミはコメント欄に連投されたスーパーチャットを見つけ、ちょっと待てとツッコんだ。


 鬼童丸はゲームに集中しているが、宵闇ヤミはVTuberだから配信を盛り上げることも考えないといけない。


 それにはヤミんちゅ達が必要不可欠だから、ちゃんとこういったいじりに対してリアクションを取っている。


 鬼童丸とタナトスは既に少し離れた所に移動しているから、宵闇ヤミとヘカテーの模擬戦はいつでも始められる。


召喚サモン:タキシム」


召喚サモン:デスレイプニル!」


 ヘカテーが召喚したのは、黒塗りされた人型のアンデッドモンスターだった。


 UDSにおけるタキシムという存在は、やることなすこと全て裏目に出て、理不尽な目に遭い続けて死んだ者の亡霊が世界への恨みの強さゆえに現世に留まって発生したとされている。


 それゆえ、LUKの数値がどんなにレベルアップしても0であることの代わりに、他の能力値の数値が高く設定されている特殊なアンデッドモンスターだ。


 その一方、宵闇ヤミが模擬戦に出したのは相棒のデスレイプニルである。


「宵闇ヤミ、なかなか相棒が強くなったね」


「そう言ってもらえると頑張った甲斐があったわ」


「でも、まだ私の相棒とは戦えない」


「…だったら、この模擬戦でその認識を改めさせてみせる!」


 ヘカテーからタキシムは相棒ではないと暗に告げられ、宵闇ヤミは悔しく感じた。


 だからこそ、ヘカテーの相棒と戦えるぐらい自分の従魔は強くなったんだとアピールするべくこの模擬戦に挑む。


「デスレイプニル、【深淵追弾アビスホーミング】」


 AGIはデスレイプニルの方が高かったようで、デスレイプニルはタキシムに向けて追尾する深淵の砲弾を命中させた。


 その瞬間、タキシムから感じられるオーラが強まる。


「えっ、何これ?」


「【痛力変換ダメージイズパワー】だよ。ダメージを負う度にSTRが高まるパッシブアビリティ。タキシム、【復讐強打リベンジスマイト】」


 タキシムがデスレイプニルに接近して拳を繰り出したら、デスレイプニルが吹き飛ばされてダウン状態に陥った。


 これには宵闇ヤミも思わず声が出てしまう。


「嘘でしょ!?」


「追撃開始」


 タキシムによる追撃を受け、デスレイプニルのHPは1ターンで6割も削られてしまった。


 ここで【復讐強打リベンジスマイト】について解説すると、戦闘において必ず後攻になる代わりに受けたダメージの倍のダメージを与えられるという効果がある。


 今回はそれが偶然にもダウン状態を引き起こしたから、デスレイプニルは一気にHPを半分以上失う羽目になった。


 (不味いわ。チュートリアルでのヘカテーは全然本気じゃなかったんだ。いや、今も本気じゃないはずなのに)


 宵闇ヤミは自分とヘカテーの間に広がる差を見せつけられ、勝ち筋が見えないことに焦りを感じていた。


 師匠NPCと模擬戦をしているのは鬼童丸も宵闇ヤミも変わらない。


 鬼童丸は喋れるアンデッドモンスターに善戦していたのに対し、自分がこの有り様では鬼童丸に失望されるのではという不安が宵闇ヤミの心の中で強まって来る。


「それでも、ヤミは鬼童丸さんの隣にいたいの!」


 その瞬間、ダウン状態から立ち直ったデスレイプニルの体が闇に包まれる。


『強敵との戦闘で大差をつけられ、宵闇ヤミから強い感情を検知したため、デスレイプニルがグレスレイプに特殊進化します』


『グレスレイプの【拘束円陣バインドサークル】が【強奪拘束スティールバインド】に上書きされました』


 今は八本脚の人馬形態だったデスレイプニルだが、グレスレイプ進化したことによって一本角を生やした黒馬の頭をした悪魔に変わった。


 【劣勢からの覚醒きちゃ! (決闘代:2,000円)】


 【こういうのを待ってたんだ! (情報料:3,000円)】


 模擬戦中ではあるが、指示を出さなければ次のターンは始まらないから宵闇ヤミはグレスレイプのステータスを確認する。



-----------------------------------------

種族:グレスレイプ Lv:1/100

-----------------------------------------

HP:2,560/6,400 MP:6,000/6,400

STR:6,400 VIT:6,400

DEX:6,300(+100) AGI:6,500

INT:6,500(+100) LUK:6,300

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アビリティ:【深淵追弾アビスホーミング】【破壊突撃デストロイブリッツ

      【深淵刃アビスエッジ】【魔法吸収マジックドレイン

      【八脚馬化スレイプニルアウト】【強奪拘束スティールバインド

装備:拘束杖イプニル

備考:なし

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 (これならいける!)


 グレスレイプのステータスを確認し終えた宵闇ヤミは、これだったらタキシムと戦えると感じた。


「グレスレイプ、【強奪拘束スティールバインド】よ!」


 タキシムにAGIで勝っているから、グレスレイプは先に【強奪拘束スティールバインド】を発動する。


 【強奪拘束スティールバインド】は敵を3ターンあるいは3分拘束するアビリティだが、拘束している間に使用者は敵から1ターンあるいは1分につき全体の5%の能力値を奪える。


 3ターンもしくは3分以内に戦闘が決着しようとそうでなかろうと、このアビリティによって上昇した能力値は戦闘終了後に戻ってしまうし、消費するのにかかるMPも馬鹿にならないが強いアビリティなのは間違いない。


 これでタキシムは何もできずに再びグレスレイプが攻撃できる。


「グレスレイプ、【深淵刃アビスエッジ】」


 グレスレイプの攻撃でタキシムのHPが削られ、遂に残り半分を切った。


 まだ拘束されているタキシムは何もできないから、もう一度グレスレイプのターンである。


「グレスレイプ、【破壊突撃デストロイストライク】よ!」


 ダウンを狙って宵闇ヤミは【破壊突撃デストロイストライク】を使わせたが、その狙い通りになってタキシムはダウン状態に陥った。


 追撃のボタンが表示されれば、宵闇ヤミは勿論それをタップする。


 タキシムのHPが追撃によって1まで削られた瞬間、宵闇ヤミの耳にシステムメッセージが届く。


『宵闇ヤミが模擬戦に勝利しました』


『宵闇ヤミがLv79に到達しました』


『宵闇ヤミが称号<偏執狂>を獲得しました』


『グレスレイプがLv1からLv10まで成長しました』


 (鬼童丸さんへの気持ちがUDSのシステムに届いたのね)


 偏執狂なんて称号をゲットしたら失礼だと怒る者の方が多いはずなのだが、宵闇ヤミはそれをプラスに考えられる思考の持ち主だった。


 【模擬戦お疲れ (ご祝儀:1,000円)】


 【まさかあの展開から勝てるとは思わなかった (ご祝儀:5,000円)】


「スパチャありがとう。ヤミの想いはUDSにも届く強さたんだよ」


 スーパーチャットをくれたヤミんちゅにお礼を言っていたら、ヘカテーが宵闇ヤミに拍手しながら近づいて来た。


「おめでとう。まさかあんな形でタキシムが追い込まれるとは思わなかったよ」


「これでヤミもヘカテーの相棒と戦える?」


「かなり惜しいところまで来てる。鬼童丸とタナトスぐらいの戦いがしたいなら、もっと強くなって」


「わかった。悔しいけどさっきは痛い目に遭ったからもっと強くなって挑むわ」


 戦う前とは異なり、ヘカテーとの間に広がる差をちゃんと理解しているから、宵闇ヤミはもっと強くなってからヘカテーの相棒に挑むと告げた。


 模擬戦が終わったことで、鬼童丸も近くにやって来て宵闇ヤミを労う。


「お疲れ様。模擬戦の途中で進化するなんて驚かされたよ」


「そう? 鬼童丸さんを驚かせられたなら、頑張った甲斐あったね」


「俺を驚かせるよりももっと別のことのために頑張れよって、あぁ、フレンドコールが来てる」


「ヤミの配信を見てる検証班もいるっぽいから、色々聞きたいことがあるんじゃないかな。でも、駄目。今はヤミが鬼童丸さんを独占するターンだもの。鬼童丸さん、少し前からやりたかったことがあるから付き合ってくれる?」


 とても良い笑顔の宵闇ヤミにそう言われ、鬼童丸はジョブホッパーからの質問攻めとどちらが良いか考えて前者を選択した。

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