第52話 人の欲は!!! 終わらねェ!!!!

 時は少し遡り、午後8時に桔梗はUDSに宵闇ヤミとしてログインしてから配信を始める。


「こんやみ~。今日の新人戦で準優勝した悪魔系VTuber宵闇ヤミで~す。よろしくお願いしま~す」


【準優勝おめでとう! (ご祝儀:5,000円)】


【よく決勝まで進めたと思う。本当にすごかった (ご祝儀:5,000円)】


【新人戦もあったのに3回行動なんてタフだね (ご祝儀:10,000円)】


「わっ、ヤミんちゅ達ありがと~! 鬼童丸さんには負けちゃったけど、ヤミんちゅ達の応援もあって準優勝したよ~!」


 黄色いスーパーチャットだけに留まらず、赤いスーパーチャットまで飛び出したから宵闇ヤミは両手を振ってファンサしながらお礼を言った。


 黄色いスーパーチャットはそれなりの頻度で出るようになったが、赤いスーパーチャットは滅多に出ないから嬉しくないはずがない。


 今日は朝活配信の後、新人戦の配信を行って夜にUDSのミニゲーム配信をするという3回行動だ。


 正直、宵闇ヤミも疲れていないと言えば嘘になるけれど、それでもこうやって応援してくれるヤミんちゅ達がいるとわかると元気が出て来る。


 登録者数は現在7,000人に到達し、この配信も始まったばかりだが同時接続者数は2,000人を超えている。


 1週間以上前では考えられない状況なのだが、鬼童丸とUDSのおかげで宵闇ヤミはここまで来れた。


「さて、この配信では新人戦後に解禁されたミニゲームのアンデッドスロットをプレイしながら、新人戦の反省会兼雑談をしていくよ。良かったら#スロカス反省会で拡散してね」


【反省する気なくて草】


【人の欲は!!! 終わらねェ!!!!】


【軍資金あげる (お小遣い:1,000円)】


 ヤミんちゅ達はスロットに夢中になって反省会なんてできないのではと疑いつつ、スロットする宵闇ヤミを肯定していた。


 そもそも、ちゃんとした反省は自分1人で済ませており、その反省に漏れがないか雑談形式で宵闇ヤミは確認するつもりであり、それは概要欄にちゃんと書かれている。


「さて、アンデッドスロットを選択っと」


 努めて冷静に宵闇ヤミは応じ、アンデッドスロットの画面に遷移してスロットマシンの前に座る。


 このスロットは縦横斜めのいずれかで3列に描かれたイラストを一致させるだけのゲームだから、目押しできるタイプか純粋な乱数勝負か確かめるべく一旦プレイしてみる。


「当たると良いなぁ」


 そう言って宵闇ヤミは目押しチャレンジしてみて、アンデッドスロットが目押しできるタイプであると理解した。


【なるほどね。目押しできるタイプか】


【乱数の神は死んだ】


【これで勝つる】


 アンデッドスロットの絵柄は7種類ある。


 ゴーストとスケルトン、ゾンビ、携帯食料、ポーション、MPポーション、7の7種類で以下のような条件で絵柄を並べることでメダルが手に入る。


 ゴーストが3つ並べば賭けたメダル×3枚。


 スケルトンが3つ並べば賭けたメダル×5枚。


 ゾンビが3つ並べば賭けたメダル×10枚。


 携帯食料が3つ並べば賭けたメダル×50枚。


 ポーションが3つ並べば賭けたメダル×100枚。


 MPポーションが3つ並べば賭けたメダル×300枚。


 7が3つ並べば賭けたメダル×777枚。


 これだけ見れば通常のスロットマシンよりも良心的に見えるかもしれないが、目押しできる分ランクが高い絵柄程当てにくい。


 宵闇ヤミは1,000ネクロをメダル100枚に交換してスロットを回し、5枚投入してスケルトン3つを並べることに成功した。


 これで20枚、つまりは200ネクロの儲けになった訳だが、この程度では全然儲けた内に入らない。


 序盤は難易度の低い絵柄をコツコツと当てて慣れることにして、宵闇ヤミは新人戦の反省点を述べ始める。


「予選では生存最優先にしたけど、もっと効率良く敵を倒したかったかな。ちゃんと2体とも倒せた敵って1人しかいなかったし」


【効率良くって言うより火力不足だよね】


【ガチャにネクロを捧げず、各種ブースターを買っておけば良かったんや】


【うっ、正論パンチが俺にも刺さる】


 (そうなんだよね。鬼童丸さんにもガチャにネクロ使い過ぎって怒られたよ…)


 この点について、ログアウトしてすぐ今後のためにコネクトで新人戦で戦ってみてのアドバイスを求めたら、鬼童丸に真っ先にツッコまれた。


 配信を盛り上げるためにガチャを引いていたのは事実だが、実際にはその半分ぐらい自分もガチャを引きたくて引いていた節がある。


 それで各種ブースターアイテムでの強化が疎かになっていたのは否めないから、宵闇ヤミはこのアンデッドスロットで儲けて各種ブースターを購入するつもりである。


「今後は稼ぎをガチャだけにつぎ込まず、ちゃんと各種ブースターを買うよ。このアンデッドスロットで勝ったお金でね!」


【ちゃんとスロカスで草】


【これがギャンブラーか。汚れちまったもんだぜ】


【オラッ、さっさとネクロ出せ!】


 コメント欄のヤミんちゅ達がスロカスへのコメントとしてこれはというものを投稿した。


 中にはギャンブル中毒で家族にDVを働くダメ夫みたいなコメントまであった。


 とりあえず、悪事を働いて手に入れたネクロでなければ良いので、目押しに慣れて来たところで賭けるメダルの枚数を増やしていく。


 ヤミんちゅ達と話しながらでも、宵闇ヤミは携帯食料までなら3つ並べられるようになった。


「決勝トーナメントはどうだった? まずは第三試合の方からヤミんちゅ達の意見が聞きたいな」


【ジョブホッパーの出して来たザックームが曲者だったね】


【最初に麻痺じゃなくて毒にした方が良かった気がする】


【継続ダメージはターン数が重なれば重なるだけ厄介だからやるなら最初】


「なるほどね~。あっ、当たった♪」


 アドバイスを受けている間に、しっかり携帯食料を3つ並べられたおかげで2,500枚のメダルをゲットしたものだから、宵闇ヤミはご機嫌そうなリアクションになった。


 この反応に対してキレる者がいないあたり、スロットに対して寛容なヤミんちゅがこの配信に集まっているらしい。


「次からは毒を先に仕掛けることにするよ。【猛毒眼ヴェノムアイ】になったことだし、【毒眼ポイズンアイ】よりも早く仕掛けた方が良いのは間違いないもの。じゃあ、リバースさんとの準決勝の反省点は何だと思う?」


【あれは結構ギリギリだった。最後も博打に勝っただけだし】


【やはり火力不足。ネクロの無駄遣いし過ぎィ】


【混乱させたい気持ちはわかるけどダウンの方が確率高いからダウン狙いに絞った方が良かった】


「だよね。ヤミもあの試合が終わってからそう思った。あれもこれもやろうとせず、ダウンに絞った方が効率は良いんだよね」


 ヤミンチュの中で鋭い意見が出て来たため、宵闇ヤミはそれに賛同した。


 欲張って混乱を狙いに行かず、ダウンを狙って【多重怯噛マルチプルバイト】を連発した方が与えられるダメージ量の期待値は大きい。


 混乱状態になったからと言って、100%自傷するとは限らないのだから堅実に戦った方が良かったのは言うまでもない。


 グサッと刺さる指摘をされ、それに動揺したのか宵闇ヤミは目押しに失敗した。


「あっ…」


【ヒャア、待ってたぜェ! このミスをよォ! (愉悦代:2,828円)】


【ヤミ虐助かる (愉悦代:3,939円)】


 宵闇ヤミのミスが嬉しい愉悦勢のヤミんちゅからのスパチャが続いた。


 ぶっちゃけた話、ゲーム内通貨よりも現実のお金の方が欲しいから、宵闇ヤミにとってこれはこれでありだったりするが悔しいことに変わりはない。


「次行くよ次! 鬼童丸さんとの試合ってどうだった? ぶっちゃけあれでもやれることはやったかなって思ったんだけど」


【まあ、あれはしゃあなし】


【グリキュラの方がゲイザスよりレベルは高かったけど、ゲイザスの方が決勝戦に必要だった】


【デスライダーを崩せない時点で勝てないのは確定してた。ヤミヤミはよくやったよ】


「だよね! あっ、当たった!」


 思わず力んでボタンを押したら、ポーションを3つ揃えることに成功して10,000枚のメダルが手に入った。


 ここから先は反省会が終わって雑談メインになり、実入りの良い絵柄にも果敢にチャレンジした結果、宵闇ヤミは配信終了までで8,350枚のメダルをゲットして今回の賭けは勝って終わることができたのだった。

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