第18話 合同事業に向けて
「話をまとめてきます、か。どういう風にする気だ?」
「ソフィーさんのおかげです。おそらく正しく理解したと思います」
シーラの眉間にしわはなく真っ直ぐにぼくを見る。
正しく理解ねぇ──ぼくは呟く。
さて、どうするべきか。
目先の利益よりも恩を返した上で、言わば不労所得を手にする。
生活が安定すれば、貴族籍から抜けて自由の身だ。
正直、そのぐらいしか考えていなかったが、よく考えたら美容品は金になるし危険なのか。
ソフィーに感謝するところだが、シーラは何を理解したんだろう。
「──では、正解を聞こうか」
「はい、ソナタ様は成果は欲しいけれども、面倒事が増えるぐらいならば、利益はそこまで欲していないとお考えかと。身の安全と、なによりこのまま自由にしていたいとお考えでしょう?」
「……正解だ」
「ならば、そのようにいたしましょう」
キッパリ言い切ったシーラはやはりかっこいい。
「できるか?」
「夏が終わる前までに話を纏めるのであれば、まずは王都へ参ります」
「王都、何故?」
「王都にはレガート様がいるように、ペザンテ領からもガリア領からもある程度権限を持った方がおられるでしょう。レガート様とともにそこで交渉といったカタチがよいでしょう。できればファランドール様もご一緒に」
「ふむ、もう少し詰めようじゃないか。ソフィー、お茶を入れてくれ」
お茶をすすりながら、ぼくたちは話をまとめて行く。
シーラはやはり優秀なのだろう。
うまくいけば理想的な不労所得をゲットできる。
まず、ぼくの開発というのは公表し、名前は売ることで成果を得る。言わば開発者としての名前はぼくになるわけだ。
けれど、実際の主導は各領地へと任せることとする。リリーズ、ペザンテ、ガリアの三家が事業として好きにつくって好きに売ってくれればいい。当然、売り上げの数%はぼくに入る。
品質を担保するための管理する人間は師匠に任せる。
ぼくに入ってくる利益は少なくなるが、ぼくの安全は保たれるし、ガリア侯が乗ってくるのならここでの生活は安泰かもしれない。
「ガリア侯が乗ってくるかは読めませんな」とアルガス。
「ならば、北で先行販売するというのはどうだ?寒くなるのは北の方が早いのだ。先行販売で最初は実験的要素があるから利益を多めでいい。改善点、問題点はそこで洗い出す」
「民を実験に使うというのはどうかと思いますが……」
「体質──いや、肌質で合う合わないはあるだろうが、品質と数が揃うのか。そもそも売れるのかという意味の実験だな」
「それならばいけますかな」
「ファランドール様は引き受けてくださいますか?気難しいお方なのでしょう?」とソフィー。
「師匠がダメなら兄弟子にお願いしようと思う。あの人なら美容品に必ず食いつくし、それなりの人材は用意できるだろう」
「いざとなれば王都の薬師ギルドから引き抜きます。職員をそれなりの待遇で雇えばよろしいかと」
「いや、その辺りは自領で薬師を用意してもらうさ。こっちはレシピの使用権を売るというわけだ」
「あの……」とルレイアがおそるおそる話し出す。
「いくらで売るんですか?」
みんなで顔を見合わせる。
価格設定には本当に難儀した。
ぼくとしては、薄利多売──つまりは幅広い普及で低価格。こどもの小遣いでも買える程度をイメージしていたが、シーラとソフィーは客層的にもう少しあげてもいいと考えている。
ルレイアは事業にするとのことから高級品をイメージしていた。
「合同事業なのだから価格はそろえた方がいいだろう。こちらから希望を出しておこう」
こうして合同事業へ向けて、ぼくたちの話し合いは終わった。
「気が進まんが、これはさすがにぼくも王都へ行かなきゃならんかな」
「いいえ、わたしが話をつけて参ります。えいぎょう?というやつですか」
「……やれるか?」
「任せるとおっしゃってくだされば」
期待に満ちた目。
目つきが鋭く、表情があまり変わらないのでわかりにくいのだが。
ぼくにだって最近はよくわかってきたのだ。
「ありがとうシーラ、お前にすべて任せよう。こっちは損したって構わんから、王都へ行ってきてくれるか」
「かしこまりました」
そういうことになった。
そこから大急ぎで馬の手配や、各所への手紙、サンプルとレシピは多めに用意した。
護衛のアルガスと共に、翌日王都へ発った。
一月半ほど経ったある日だった。
シーラとアルガスがいないため、ぼくは犬たちの散歩へ。護衛がいないので、万が一に備えたぼくは早寝早起きを心がけ、身体を鍛え始めていた。
「なんだ?」
ぼくはの目に飛び込んできたのは、大きな馬車だった。
その大きな馬車はぼくの店の前で停まる。
途端に犬たちが騒ぎ出して馬車に向かって走り始めたのだった。
御者が馬車のドアを開けると、中からシーラとアルガスが降りて来た。
「帰ってきたのか!」
ぼくが大声をだして馬車へ駆け寄ると、もう一人降りてくる。
降りて来たのはガリア侯爵だった。
ぼくも犬たちもまだそれを知らずにいたのだった。
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