第17話 練りポーション

ルレイアに付与の基本を教え始めた。

数日に一度、数時間程度で、実技に関してはまだだが。


最近は勉強にも鍛錬にも集中している。

その内、壁にぶつかるだろうが、それまでは好きにやらせることにしよう。


魔導具に興味がありそうだが、その辺りは追々かな。


ポーションの他、虫除け、虫刺され、日焼け止めは好調に売り上げを伸ばしている。


水分補給のため、給水ポーションも開発したが、味がいまいちで不評である。

要はただのスポーツドリンクなのだが、前世のような味は際限できずにいる。うちの従業員用であるので、売るつもりはないのだが。


北方とはいえ、やはり夏は暑いのだ。

とりあえずは我慢して飲むように伝えてある。


最近は徐々に暑くなってきた。

ルレイアは調薬にも興味があるようだ。まぁ、現在はうちの主力商品である。が、調薬には資格が必要なのだ。少なくとも建前上は。


なので、ルレイアに教えるのは当分先になるだろう。


そう思いながら、ぼくは新しく練りポーションの開発に着手していた。

スポドリポーションは、単にぼくの善意だが、練りポーション開発の発端はシーラとソフィーからの願いである。


素材の採取に行ったルレイアの怪我が増えているという話だ。

怪我とはいうが、大したものではない。ちょっとした擦り傷や切り傷、棘が刺さったとか、その程度である。


ポーションを使うのは勿体無いので、ちょっとした怪我に対しての薬はないかと。


「若、ルレイアは女の子なんですよ」


と、ソフィーに言われた。ま、そういう話だ。


気にせずポーションを使えばいいのに。

と、思わなくもないが、擦り傷程度に使いすぎもよくないか。


で。

傷口を塞ぎ、血止めと消毒の効果があり、ポーションより身体に負担がかからずに、安価で製作できるもの。


そういうコンセプトで開発に着手。

途中で、傷口は洗って消毒し、そのあとで塗るタイプへと舵をきった。


濡れずに済むように軟膏タイプ。

匂いやベタつきを抑えつつ、口に入っても安全で、犬たちを触っても平気なように開発を進める。

結果、即座に回復というよりは、回復の促進程度でいいか、となった。


塗って、眠って、起きたら治ってるような……。


こうしてできた練りポーションを見てぼくは呟いた。


「これは……ハンドクリームだな」


間違いなくハンドクリームだった。

いや、ボディクリームとも言えるか。


最初の一年で成果を出せ──師匠の言葉が蘇った。


間違いなくやった。これは、売れる。

早速、新開発の練りポーションとして効果を試させてみた。


四人からは大好評だった。特に水仕事の多いソフィーは本当に嬉しそうだった。

色々と調整をして、二種類用意する。


香料タイプと無香料タイプである。


そして、四人を集めている


「さて、みんなに試してもらったこの練りポーション──いや、ケアクリームなんだが、化粧品……いや、美容品として売ろうとぼくは思っている」


「美容品ですか……いいですね。これは間違いなく売れます」


「そこで問題がいくつかあってな。大々的に売ろうと思ったら、当然、ぼく一人ではまず作りきれん」


「錬金術師を雇わなきゃならないと?」


「いや、薬師だな。練りポーションと言ったが、こいつは薬師の領分だ」


「と、なると、薬師ギルドで委託しますか?あまりお勧めはしませんが」


「そこなんだよ、シーラ──」


ギルドへレシピを公開し、製作と販売を完全に委託した場合、薬師ギルドへ加入している薬師がつくるわけなのだが、当然ながら腕に差が出てくる。

美容品といって売り出す以上は、ある程度の品質を担保したいところではあるのだ。


「──だから、これを機に色々と清算するというのはどうだろうか」


「清算、ですか……事業を拡大じゃなくて?」キョトンとするシーラに向けてぼくは続ける。


「あぁ、ぼくはコレだけ作って終わりというのは嫌だからな。今はまだこの店とお前たちだけで十分なんだ。いずれは色々と手広くやる気ではいるんだけれど、これをメインに他の美容品や化粧品をってのは考えていないのさ」


「では、清算というのは」


「この店の土地代は兄さまが。上モノの建て替えの払いは姉さまだからな。恩を返すいい機会じゃないか」


「リリーズとペザンテ。二家の事業にするとお考えですか?」


「そうだ。サンプルとレシピを送って二家での合同事業にすればいい。ぼくはそこからほんの少しもらうことにする」


「いいのですか?結構な大金が手に入りますよ」


「まずいかなぁ?」


兄さまと話すためだけに王都へ行くのも、両親に頼みにリリーズ領へ行くのも面倒だし、ましてや、ペザンテ領には行ってられんし。


幸いに両家とも土地はあるのだ。

たとえば、庶民向けと貴族向けで上手く棲み分けできんかな?


「夏が終われば寒くなって空気が乾燥するだろう?その時に一気に売っときたいのだよ。そのための材料と人員の確保はぼくにはまだ無理だ」


ぼくの言葉にシーラは眉間にしわをよせる。

チャンスをふいにしていると思っているようだ。


「若、大変よろしいかと思います」


「ソフィーは賛成か?」


「ええ。もちろん」


「ちょっとソフィーさん。なぜでしょうか?ソナタ様が一人前になって大金を手に入れる折角のチャンスではありませんか」


「若はまだ店を持ったばかりの駆け出し。駆け出しが、身の丈に合わない大金を手に入れるというのは、それなりにリスクがありますから」


「でもっ……」


「二家の事業であれば、少なくとも二家は若をお守りするでしょう。いっそのことガリア候とファランドール様を巻き込むのが、尚よろしいかと」


まるで貴族のような優雅な笑みを浮かべるソフィー。

シーラは口元を手で覆うとなにやら呟いている。


「よくわかりました。ソナタ様、サンプルとレシピをまとめて頂けますか。わたしが話をまとめてきます」


シーラは、どこか覚悟を決めたように言うのだった。

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