第36話 まだまだ完全に許したわけじゃないですよ!


 車内が一瞬で甘やかな空気になる。


 見つめ合う二人——。


 近づく顔——。


「夢——」


「ちょっと待って!!」


 夢乃ゆめのが絶妙な距離でガードする。つかまれていない方の手で鷹田たかだを制すると、勢い余った鷹田のくちびるが手のひらにむぎゅっと押し付けられた。


 ——あっぶなーい!


 手のひらにキスした形になった鷹田はゆっくりと顔を離した。


「……」


「な、なんですか、その不満そうな顔は?」


「あたりまえだ。今のはどう見ても——」


 どう見てもキスする場面じゃないか?


 と、鷹田の顔には書いてある。


「いやまだ無理ですってば」


「ダメか?」


 今度はその長く形の良い指で夢乃の柔らかい髪を絡めとる。夢乃は自分の頬が熱くなるのを感じながらも断った。


「……ダメです」


「わかった」


 鷹田は「我慢する」と言いながら、指ですくった夢乃の髪にキスをした。キスしながら上目遣いに夢乃に笑いかけてくる。


 ——ひゃっ、ひゃあああ!


 やっぱり自分の顔の良さを自覚しているとしか思えない。夢乃は心の中で歓喜とも驚愕とも取れる悲鳴をあげるしかなかった。







 つづく

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オレ様彼氏の浮気で別れたらそれは誤解でしたが素直に謝ってくれないのでこじれてます 青樹春夜(あおきはるや:旧halhal- @halhal-02

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