第24話 沖縄料理
夏の終わり、姉さんの写真クリップが女性誌に載った。たまたま本屋で手にした僕は、
「これ、砂湖が言ってた記事だ。凄い、ホントに沖縄に行ったんだ」
砂湖に聞いていた話が現実味を帯びて、本に載っているのにびっくりして、無条件で手に持つと会計までワクワクして運んだ。砂湖と姉さんが旅した沖縄の記事。
それは、沖縄の食事と暮らしをテーマにした囲み特集で、抜けるような青い空をバックにした沖縄独特の民家の庭で、籠いっぱいの野菜と数々の大皿料理を組み立てた写真。強い明るい日差し。片隅には、準備している日焼けして麦わら帽を被った砂湖が小さく写っていた。後で聞くと、これは撮った中のほんの一部で大部分の写真は、特集ではなくこの後本になるらしい。前々からやりたかったテーマだと姉さんはとても嬉しがっていた。
美味しそうな写真の色を懐かしく感じるのは身内だからかな…姉さんの分身みたいで写真が愛おしかった。
恒例の乾杯!何かと言うと集まって祝杯を上げる。
「砂湖頑張ったね!」
「でしょ、まあ、私はそばでチョロチョロしてただけなんだけど、お姉さん凄いのよ。てきぱきレイアウトして、ううんその前に、料理専門の人から手ほどきを受けて、一つ一つ自分で作るんだから。
撮影用は火の通し具合が食べるものとは違って少し手前で止めるらしいの。そうしたほうが色が綺麗だって」
「へえ~コツがあるんだ」
だから色が綺麗なのか…カメラマンが自分で作ることに意味があるんだな。
僕は久しぶりに姉さんの横に座ってその存在をみんなに悟られないように消しながら、ぎこちなく安らぎを感じていた。
いままで遙さんと言っていた砂湖の口からお姉さんと呼ぶのを聞くと、なんだかピンとこないけど親しみを感じてるんだなと思えて顔が緩んだ。
「この写真を使ってこのあと本格的な写真集を出すことになっているの、その時には沖縄料理を用意して、来て頂いた人に食べてもらえる出版記念パーティーにしたいなって」
「そんなの砂湖が決めんの?」
「そうよ、良いアイデアだと思わない。お姉さんあんまり乗り気じゃないんだもん。私がやるわ」
「遥さん、ありがたいアシスタント雇ったもんだね」
「そうなのアイデアが豊富なの、スタイル良いからモデルもやれるでしょ、私は写真だけ撮るのに集中できてとってもありがたかった。砂湖ちゃん自然体でくつろいでて全然料理のじゃまにならないの凄い才能じゃない」
「私、料理も習おうかな。写真家にはなれないけど食べるの好きだし、野菜の色が綺麗で沖縄にいる間いっぱい食べたから本当に美味しい料理を作ってみたいの」
野菜サラダを口いっぱい頬張りながら健康そうに笑った。
「はい、晴にもレタス」
ユンちゃんが皿にこんもりとレタスを乗せて僕に渡す。その上にもう一段祖知が乗せる。
「待って待って!僕が好きなのはレタスチャーハン。これは生野菜だろ」
「同じだろ。レタスだよ。食べてみろよ」
「やっぱり、野菜だな」
渋々口に運んでそういうと、祖知とユンちゃんが大笑いした。
「あ、これ。前に晴ちゃんがアレンジしてって言ってた曲。ちょっとやってみた」
砂湖から受け取るクラフト封筒に楽譜が入っていた。
「おおこれ?」
それは僕が砂湖に渡した明るめのセレナーデだった。時期がら暗いイメージの曲を嫌ってつくった1曲。
「作曲もちゃんとやってたんだ」
「当たり前、時間は割りとあったのよ。天候のせいで撮影が中止になるときもあったし、自然がいっぱい、空は真っ暗で星も綺麗、イマジネーションが広がる。ほんとに良い仕事だった。
あ、こっちにも曲もつけてみたの」
「新しい曲で…?」
僕がユンちゃんに渡した詩にオリジナルの曲が付いていた。
「ユンちゃん凄いよ。これ」
こうなると僕は食事どころじゃない。ギターを寄せて弾いてみた。
「そんな感じ…いいね。晴、歌って」
照れ臭くて歌えない。でも、曲だけでも披露したくてギターを爪弾いた。横からユンちゃんが歌詞を拾う。図らずもユンちゃんとデュエット。良い歌だった。
「新境地だね。生活観のある作品は僕には作れないから。これからも砂湖ちゃんと晴に任すよ」
「なんか嫌味な言い方だね。僕たちが庶民みたいなさ」
「ね~。あ、でもこういう曲ならもっともっと作れそうな気がする」
僕たちミュージシャンは仕事だけでは食えないからバイトする者も多いし仕事に追われてなかなか旅行に行こうという心のゆとりが無い。ましてや家弁慶の僕やユンちゃんに付き合っていたら何処にも行けなかっただろうに…
沖縄出張は、砂湖にとって良い刺激になって僕たちの活動にも弾みがつきそうだった。
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