第5話 秋の計画
十月、校舎の外には本格的な秋の気配があった。
夏には青々しい葉を茂らせていた桜の木々は、日ごとに葉が黄色味を増してきている。西日に照らされたグラウンドには練習に励むサッカー部の姿があって、時折掛け声や声援が校舎の中まで届いていた。
「ねえねえ、今度みんなでこのお店行かない!? 最近動画でよく見るふるふるアニマルスイーツ! 期間限定でお店ができるんだってっ」
放課後、二年C組の教室。
それぞれ持ち寄った菓子をつまみながら、佑月たちはいつものようにおしゃべりに興じていた。
佑月がスマホの画面を見せると、りくと光一はそれを覗き込む。
「へ~、近くにお店できるんだね。これかわいいよねぇ。ぼくも一回食べてみたいなぁ」
「佑月ってホントこーゆーの好きだよな。恋人も食べ物も見た目重視っていうかさ」
それぞれ違った反応が返ってくる。
三人とも甘いもの好きではあるけれど、好みには明確な違いがある。
佑月は見た目が華やかで可愛らしい菓子に惹かれがちだし、りくは和菓子好きだ。
光一は味にうるさい本格志向で、小遣いをやりくりして美味いスイーツ店を巡るのを趣味としている。
「可愛くて美味しいって一石二鳥じゃんっ」
「いやいや、見た目と味は別だろって。佑月は頭ん中で『かわいい』が『美味しい』に全部変換されてると思うんだよな」
「ぼくは行ってみたいな。高校生のうちにたくさん思い出つくっておきたいし」
「思い出作り! りくちゃん、僕もたくさん思い出つくりたーいっ」
「卒業までまだ一年半あるのに何言ってるんだよ。時間は余るほどあるだろ。甘味といえばさ、最近オレはこの店が気になってるんだけどさ」
そう言って光一はスマホを操作し、画面をみせてきた。
今度は佑月とりくが覗き込む。
「チョコ専門店のクレープ……? わあ、チョコもフルーツももりもり入ってておいしそー! このお店、最近オープンしたばっかりなんだ?」
「おいしそうだねぇ。ぼくは抹茶味とマロン味が気になるなぁ」
「だろ? 評判もいいし、二人も好きそうだなと思ったんだ。でもさこの店、一つ重大な問題があってさ」
「問題?」
佑月とりくが首をかしげる。
光一はうなずき、大きなため息をつくと、恨めしそうな顔で画面をスクロールしていく。
「住所見てくれよコレ。……近くに東雲高校あんの。めっちゃくちゃ行ってみたいけど、アルファの巣窟に飛び込んでいくようなもんじゃん? このクレープは店に行かないと食べられないんだけど、リスク高いよなって……」
「本当だ。じゃあ、ぼくたちが行くのは良くないねぇ」
少しだけ身を乗り出し、目を細めて画面を確認したりくがあっさりと同意した。
光一は無念そうに肩を落とし、ちらりとりくを見る。
「やっぱそう思う?」
「ぼくたちはオメガ性だし、安心して行けるお店がいいと思うな」
「……それってつまり、行き先はふるふるアニマルスイーツのお店のほうが良いってこと?」
話の流れを見守っていた佑月がおずおずと二人に訊ねると、りくはにっこりと、光一は渋々と言った様子でうなづいている。
佑月は思わずガッツポーズをしていた。
「やあったー! ではでは、僕たちオメガ三人が安心して行けるお店かどうか、もう一度よくリサーチして報告するよ隊長! さいっこうの秋の遠足にしましょう!」
「隊長って誰だよ」
「ふふ、頼んだよ副隊長~」
佑月は気合をいれて「いえっさー」と元気よく返事をした。
その日佑月は帰宅するなりスマホにかじりついて、ふるふるアニマルスイーツについて早速リサーチした。
店までの経路や電車の時間、営業時間や定休日、人気メニュー、予算や周囲にある商業施設にいたるまで徹底的に調べ上げたのである。
――――しかし結局、それらの情報が活用されることはなかった。
「勉強もそれくらい頑張ればいいのに」と光一に呆れられるほど全力で事前準備に取り組んだものの、楽しみにしていた秋の遠足は、思わぬ事態によって中止するしかなくなったのだ。
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