第6話 デート①
週末、ジュンと三回目のデートの約束をしていた。
その日も電車に乗って、佑月のほうが会いに行った。
土曜日ということもあって、電車や駅構内は平日とは違って賑やかな雰囲気だった。楽しそうにはしゃぐ同年代の子たちもいれば、幼子を連れた夫婦や、グループで席をとっている高齢者、スーツを着たサラリーマンの姿もある。
居合わせた乗客の中には、自分と同じようにこれからデートに向かう者もいるに違いない。
そんなことを考えながら、列車の揺れに身をまかせていた。朝から胸が高鳴って仕方なかった。
「今日は佑月くんと二人で行きたいところがあるんだ」
駅まで迎えに来てくれたジュンは、顔を合わせるなり、甘い声色でそう佑月を誘ってきた。
佑月は夢を見ているような心地でこくんと頷いた。
ドキドキしながら、混雑する駅の構内を横切り、彼の後ろをついていく。
私服姿のジュンはやっぱり最高にかっこいい。
古着風の緑の柄シャツがとてもクールだ。ビッグシルエットの柄シャツの内側には、フロントに大きなデザインのある黒いロゴTシャツを合わせている。細めの黒いスラックスが長い脚を際立たせている、80年代風のコーディネートだ。
(こういうコーデ、僕もかっこよく着こなせるようになりたいなぁ)
雑誌から飛び出してきたモデルのような男が、圧倒的なオーラを放って街中を歩いているのだ。
すれ違いざまに、道行く人々がちらちらとジュンに視線を流していく。
何人もの女の子たちがジュンにうっとりしているようだった。ジュンに視線を投げかけてきた男の中には、もしかしたらオメガ性のライバルもいたかもしれない。
……一応、身なりには気を使ってきたつもりだけれど、オトナっぽいジュンの隣で自分は変じゃないだろうか。
一抹の不安に駆られた佑月はショーウインドウに映る自分の姿をちらりと見遣った。
シンプルなボーダーのTシャツに七分袖のポンチョパーカーをあわせたコーデは我ながら悪くないとは思うのだけど、ジュンの評価はどうなのだろう?
ジュンは時折佑月を振り返りつつ、どんどんと先を歩いていった。
駅前の大通りを横断し、ファストフード店の前を通って、脇道に入る。飲食店やカラオケ店が立ち並ぶ細い道を進んでいくと次第に周囲はひっそりとしてきて、更に道を進むと、遠くに派手な看板が立ち並ぶラブホ通りが見えてきた。
通りの右側にある建物の向こうには線路が敷かれているようで、列車が通過するたびに、ガタンガタンと大きな音が周囲には響いていた。
(どこに行くんだろ? ……もしかしてジュンさん、僕とシたいのかな?)
だとしたら嬉しい。でもそれ以上に、とてもとても困ってしまう。
今の佑月はジュンとセックスすることは難しい。不可能ではないらしいが、一緒に快感に溺れることができないのは確実だ。
番持ちのオメガがパートナー以外の相手とセックスをしても、身体が拒絶反応を起こして痛くて苦しいだけなのだと耳にしたことがある。
(痛みとか苦しいのって……我慢できないくらいなのかな?)
そういうものらしい、という知識があるだけで、その不快感というものを佑月はまだ実感したことはない。
しかし思い返せば、学校でりくと抱き合ったりしてじゃれているとき、不自然な違和感を抱くことはあって。あの先にあるものがきっとオメガの拒絶反応なのだろう、という予想はしていた。
誰かと性的な触れ合いをしたことはまだないから、確かなことはわからない。
――キスとかセックスというものに、もちろん興味はある。
期待もあれば、怖さもあった。……自分は一度だけセックスをしたことがあるらしいが、すっぽりと記憶が抜け落ちているので、
他人と肌を触れ合わせるってどういう感じなんだろう。愛を伝え合うセックスってどんなにか幸せなんだろう。
今の佑月が手を伸ばしたところで、その幸福は絶対に得られるものではないからこそ、興味を抱かずにはいられない。ほんのりと憧れてしまう気持ちも確かにあった。
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