第29話 正反対




 力強いのに、凪いでいる。

 力強さで以て、ただ抑えつけて、凪いでいる様を創り出しているわけではない。

 正反対の効力を持ち合わせている不思議さ。

 細かに蠢き、ひそかに蠢き、荒々しく蠢き、気高く蠢き。

 ひとつひとつの細胞が、主に恥ずべき言動を行うべきはないと付き従う。

 己を掌握しているがゆえ。

 己を制覇しているがゆえ。

 揺らがない。

 立ち姿も、歩む姿も、飛翔する姿も、何をしても、何をするにしても。


 生物として敵わない。

 この世のあらゆる現象さえも、敵わない。

 仰ぎ見たくて。

 首を垂れたくて。

 正反対の動作で以て、畏敬の念をただ、示す。




 力強い。

 凪いでいる。




 居心地がいいと、感じて。

 いや。

 居心地がいいと感じた事は、もしかしたら、一度たりとも、ないのかも、しれない。

 恐怖を感じているのだ。

 居心地がいいなど、どうして、感じる事ができようか。


 だがそれならばどうして。

 こんなにも離れ難いのか。











(2024.8.27)



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