第2話 破産という事実を受け止めると真に欲するものが視えてくる

「退職金が尽きても心配は無かった、まだ土地が売れたからね」

 貯金が無くなったので彼は家・土地を売った。

「この金は準備金さ」

 彼は数少ない友人にLineしている。

「ホント、心配でしたね、あの歳ですしね…でも本当に心配したのは、その後だったんですよ」

 後のインタビューで彼の友人はそう語っている。

 その友人宅を訪ね、彼はこう言ったんです。

「何も聞かずに預かってくれ」

 大きな箱を持ち込んできて、しばらくはガレージに置きっぱなしだったんですけど、子供があけちゃったんです。中に、あの鎧と模造刀が入っていたんで驚きましたよ。

 それから3か月くらいして引取に来て、やっと安心したというか…まぁ、今となってはねぇ…。

 自己破産という選択を選んだ彼は一切を失った。

 独身で良かった。

 事前に友人宅に預かってもらっていた箱を引取に伺ったとき、地元の饅頭を持っていくことを忘れてはいなかった。

「その饅頭はね、ここ一番の商談のときに必ず持って行っていたんですよ、ゲン担ぎってヤツですね」

 そのときのインタビュアーが貰った饅頭のことである。


 彼の言葉である。

『破産という事実を受け止めると真に欲するものが視えてくる』

 とはいえ自転車まで差し押さえされるとは…驚きであった。

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