7月23日
7月23日(火)
濱野はやっぱり来なかった。
毎日塾に来るって言ってたのに、どうしたのだろう? 本当に誰も知らないのだろうか?
「高橋さん、濱野は体調でも悪いの?」
小さな背中がぶるっと揺れた。急に話しかけられてびっくりしたよ、と言いながら笑う彼女はどこかぎこちない。
「濱野くんのことは……私も知らないの」
肩にかかった髪が、少しだけ赤茶色に染まっているように見えた。夏休みに入ったから染めたのかもしれない。
「今日も部活に来なかったみたい。連絡してるんだけど何も返信はないし、心配なんだよね」
「高橋さんは濱野の家の場所、知ってるの? もし知ってたら行ってみたいんだけど……」
「ごめん。行ったことないから、分からない」
高橋さんと濱野の関係はよく知らない。お互いに北高で、よく二人だけで話しているのを見かけたことがある。濱野のこと、もし知っているなら……と思って話しかけただけだ。そう、ただそれだけ……。
「今までこんなことなかったからさ。濱野くんのことだからきっとサボったりしてる訳じゃないだろうし」
目の前にいる高橋さんは、座ったまま僕の顔を見上げていた。甘い果物のような匂い。僕の肺を満たしていくその香りは、間違いなく彼女のものだった。
「部活の先生も『流石におかしい』って言ってたらしくて……。今日濱野くんの家に行くらしいよ」
彼女は濱野の家を知らなかった。行ったこともないと言った。その声が、その音が、なぜかずっと僕の胸の内で鳴り続ける。塾の授業後も、家に帰った時も、夜ご飯を食べていた最中も。
僕が何を考えているのか、僕自身分からない。彼女の言葉はそれ以降あまり覚えていない。彼女の席を離れた時、僕は何の話をしていたのかすら分からないほどに不安定だった。とにかく、やっぱり今日の出来事は不思議だった。
僕は濱野のことが心配なのだ。
それは間違いないと思う。
ただ高揚した心も間違いなく存在している気がする。
最後の一ピースがはまらないパズルのように、ひどくもどかしい気分が僕を取り巻く。
濱野がいなくなったなら、僕は……。
日記 メンタル弱男 @mizumarukun
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