第56話 嫁とデート。そして…

 クラゲコーナーを楽しんだ俺たちは海遊館の目玉であるイルカショーを見に来ていた。1日に2回しか開催せず、超人気なこのショーはすぐに椅子が埋まってしまう。チケットを事前に予約していてよかった。すぐに完売となったからだ。


「いっぱいだねミナくん」


「予想以上だな、これは」


 広めの観客席であるのだが、空席は無く満席である。スタッフから手渡されたカッパを身に着けて俺たちは最前列に座った。かなり濡れると説明を受けたのでスマホや濡らしてはいけない物はビニール袋に入れている。そしてもちろんせーちゃんにかかっている呪いの対策はしている。最前列は数人しか座れない事に加えて、カップル席を予約した。周りの人が手を振り回しても当たらない距離にあるため安心してショーを楽しめる。


「ただいまより開演です。ごゆるりとお楽しみください」


「いよいよだね」


「うん。楽しみだ」


 ショーが始まるブザーが鳴り響くとイルカたちが一斉に飛び跳ねた。そこから先は圧巻だった。イルカが水に空に所狭しと舞い踊る光景。時に輪くぐりをしたり、スタッフの合図でイルカたちが絵を描くように水中を泳ぎ回る。つい目を奪われてしまった。こんなにも綺麗なのか…。人気なのも分かるなぁ。


 チラリとせーちゃんを横目で見ると、せーちゃんも目を奪われてしまったようで釘付けになっている。良かった、楽しんで貰えて。安心してショーを眺める。


 開演時間は30分だがあっという間だった。凄かった。出口を出てすぐにせーちゃんは興奮冷めやらない様子で話しかけてきた。


「ミナくんミナくん!イルカがバシャー!ってなってドボーン!してグルグルしてそれでそれで本当に凄かったね!」


「うん!最高だった!」


 もちろん俺も興奮していた。まさかここまで凄いとは思わなかった。


「えへへ、ミナくんミナくん」


 せーちゃんは嬉しそうに腕を組んでくる。そのまま海遊館を周り気が付けば17時を超えていた。9時からここに居たのを考えると随分長い事居たようだ。だが、体感時間ではあっという間だった。


「楽しかったねミナくん!」


「うん!」


 せーちゃんはニコニコの満面の笑顔だ。俺も似たような表情だろう。


帰宅すると既に18時を超えていた。夕飯はウー○ーイーツでマク○ナルドの宅配をお願いした。俺はビッグマ○クのセット、せーちゃんはダブルチーズバーガーのセットを頼んだ。

 

◆◇◆

 夕飯を食べて二人でまったりとした時間を過ごす。バラエティでも見ようとテレビをつけるとちょうど何かの映画らしき映像が流れて来た。おそらく恋愛系の映画だと思うのだが、なんというか、その、濡れ場だった。男女とも半裸状態。響き渡る女性の嬌声。慌てて別の番組に変えるも時すでに遅し。バッチリ見てしまった。チラリとせーちゃんを伺うと、顔を真っ赤にしていた。何となく気付いていたがこういう物に耐性が無いらしい。


 少し気まずい空気が流れる。せーちゃんが上目遣いでこちらを見つめていた。


「…ねぇミナくん」


「うん」


「あの、その…」


 せーちゃんがモジモジしている。眷属の感覚共有でせーちゃんの気持ちが伝わって来た。


 据え膳食わぬは男の恥。一度恥を晒した。だから今度は俺から誘おうと決めていた。心臓がバクバクと高鳴り、口の中が渇いていく。でも言うんだ。覚悟を決めろ、汐見湊!


「せーちゃんは、これから何か用事はある?」


「…うん、あるよ?」


「どんな用事かな?」


「…ミナくんとイチャイチャする予定…」


「うん、そっか。そうだね。じゃあさ」



「せーちゃんの予定、貰っていいかな?」

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