第14話 村の薬師は私たちだけ

その①

 2月も終わりに近づくある日の出来事です。

「ソフィー、大丈夫か」

「きついなら休んだ方が良いぞ」

「そ、そうですよ。薬作りますよ」

 昨夜から気怠さが続く私を心配してエドたちが休めと朝からしきりに言ってきます。

「体調悪いならほんとに休め。いまはサラもいるんだから無理するな」

「ありがと。でも大丈夫だから」

「ソフィー殿、本当に大丈夫なのか」

「はい。ダメな時はちゃんと休みますから」

 熱っぽいと言っても微熱程度。これくらいなら問題ありません。ちょっと怠いけどまだ大丈夫。

「とりあえず、往診の準備しようかな――」


――ソフィーちゃんはいるか!


 カバンに往診で使う薬を詰めようとしたその時です。勢いよく店の入り口ドアが開いたかと思えばバートさんが血相を変えて店の中に入ってきました。

「すぐ来てくれ! 馬車が横倒しになった!」

「サラちゃん行くよ!」

「ソ、ソフィーさん熱があるんじゃ――」

「そんなの関係ない! アリサさんは薬の準備! エドはルークと一緒にいて!」

 バートさんの慌て具合を見ればただごとでないことくらい容易に解ります。熱っぽいのを忘れるくらいの勢いで指示を飛ばし、私は往診かばんを手に急いで事故現場へ向かいました。場所は奇しくもむかし、馬車の転覆事故が起きた村の入口。あの時の記憶がよみがえる私は怪我人の状況次第ではセント・ジョーズ・ワートへ運ぶことをサラちゃんに伝えます。

「とにかく救命処置が優先だよ!」

「分かってます!」

「うん。その意気だよ。さすが私の弟子だね」

 ウチに来たばかりの頃はオドオドしていたサラちゃんがこんなにも力強く頷いてくれるなんて。緊急事態だと言うに不覚にも笑みが零れてしまいます。

「ソフィーさんっ、怪我人は何人いるんですか!」

「御者の男性が一人みたい!」

「行商ですか⁉」

「分からない! とにかく急ぐよ!」

「はいっ!」

 村の入口まではあと少し。数日前に降った雪で足元はぬかるみ何度も足を取らせそうになるけど転んでる暇はありません。命に関わるような怪我がなくとも馬車から落ちたとなれば無傷であるはずがありません。なによりバートさんのあの様子だと骨折程度じゃ済みそうにありません。

(もしかしたら……)

 考えたくはないけど万が一を想定した処置を考えた方が良いかもしれない。真夏でもないのに額から汗を流し、息が上がるのを堪え全速力で走る私は速力が落ちてきた後輩を気に掛けつつ助けを待つ怪我人にもとへ急ぎました。

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先輩薬師の後輩育成日記 織姫みかん @mikan-orihime

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