第7話 狩りの準備 

 朝起きて、階段を降りていくと、すぐに女将さんは朝食を用意してくれた。出された料理はパンにベーコンのようなものと何かの野菜が挟まったサンドイッチのような料理だった。香辛料がよく聞いており、とても俺好みの味だった。また、一緒に出されたスープもとてもおいしかった。


 食事をしている間、女将さんはこの町で金を稼ぐ方法を教えてくれた。

 

 女将さんの話によると、冒険者にならなくても、町の外に生息しているモンスターを狩ることは違法じゃないらしい。モンスターを狩ると、ドロップアイテムを落とすそうだ。


 そのアイテムを町に持って帰れば、町のアイテムショップで買い取ってくれるらしい。また、アイテムショップでは、狩りに役立つ道具や、怪我をした際の回復アイテムをそろえているとのことだった。


 また、門の外ではエアライドという名前の一人乗りの乗り物をレンタルできるという情報も教えてもらった。


 俺は、女将さんの話を聞き、宿を出たらさっそくアイテムショップに行くことを決めた。


♢   ♢   ♢   ♢    


「けっこう似合ってるじゃないか!」

「ありがとうございます」

 

 朝食を食べてから一時間後(この世界にも時計という概念はあるらしかった。最も一日は二十五時間と、地球より一時間長かったが)俺は、鏡の前に立っていた。

 

 鏡に映っている自分の頭は、おばさんにより髪を短めに切られていてすっきりしていた。また髭もきれいに剃られている。また、女将さんが持ってきてくれたズボンとシャツを着ているため、異世界風の見た目に変わっていた。


どうしてこうなったかというと……、


 朝食を食べた後にコーヒー(本当にコーヒーかどうかはわからないが味は似ていた。神様による翻訳ではコーヒーとなっていた)を飲んで一息ついていると女将さんが口を開いた。


「その髪じゃ何をするにも邪魔だろ! 良かったら私が切ってあげようか」

「えっ?」

 女将さんの突然の言葉に俺は困惑した。しかし、聞いたところによると女将さんは結婚して宿屋で働く前は髪を切る仕事をしていたらしい。俺の髪を見かねて提案してくれたようだ。


 俺は素直に女将さんにお願いすることにした。正直、床屋に行くのは昔から苦手だった。特に初対面の人と話すのが嫌で、日本ではよく寝たふりをしていた。

 

 今朝起きてから、俺も切らなくちゃなと思ってはいたが行く勇気がでなかった。この姿とこの服装で行って奇妙な目で見られるのが想像できたからだ。女将さんの提案は正直ありがたかった。


 また、髪を切ってくれた後、女将さんはどこかの部屋へ行くと、しばらくして戻ってきた。おばさんは手に、この町の人が着ているような服を持っていた。

 

 女将さんの話によると、独り立ちした息子が昔着ていた服らしい。俺は、鏡に映る自分の姿を見て、どこか清々しい気持ちになった。


「けっこう似合っているじゃないか」

「ありがとうございます!」

「昨日よりずっと良いよ! なにせ昨日初めて見たときは洞窟でずっと暮らしていた人かと思っちまったからな!」

「ははは、すみません!」


 おばさんの言葉を聞き俺は苦笑いを浮かべる。アパートにずっと引きこもってたからな。まあ似たようなもんだ。そんなことを話していると、ふと俺はあることが気になり、女将さんに尋ねる。


「あの、いくらお支払いすればいいですか? 髪を切ってもらったのと、服の分も入れて」

「えっ!? 髪と服の分は良いさ。髪を切るのは趣味みたいなもんだし、服はどうせ捨てちまう奴だからな。宿泊だけの料金の八千ギルで良いよ!」

「えっ、良いんですか?」

「ああ、ルーナちゃんに恩返しするんだろ! 頑張りなよ! 」

「ありがとうございます」

俺は女将さんの優しに触れ、胸にジーンと来てしまった。


 その後、部屋に戻った俺は、支度を整えると女将さんに代金を支払い、宿を後にした。帰りがけの「いつでも泊まりにきなね」と言う声が胸に響いた。


 宿を出ると、俺は、女将さんに教わった通りの道を進みアイテムショップに向かった。日中の町は多くの人間でにぎわっていた。町人風の恰好をした人も何人かいたが、特に服と鎧が一体になったアーマーを着ている男が多かった。


 また、通りに面して立ち並ぶ店にも多くの人間がつめかけている。特に、野菜や魚、肉などを売っている店の前は特に人が多かった。


 歩いていると何やら香ばしいにおいや甘いにおいなど、様々な香りが届いてくる。辺りを見回して見ると、どうやらその場で食べる食べ物なども販売しているようだった。


 異世界の料理の香りに心を惹かれながらも俺は通りを歩き続けた。昨日とは異なり、俺のことを奇妙な目で見てくる人はいなかった。女将さんに感謝しなきゃなと俺は改めて思った。


やがて俺はアイテムショップに到着した。看板を見ると「アイテムショップ フロンティア」と書かれていた。


 外観は、木材でできた作りのステーキ屋見たいだったが、中に入ると、日本のコンビニみたいにずらっと棚が並んでいて。そこにいろいろなアイテムが置かれていた。


 俺は適当に店内を歩いてみた。ある棚には、緑色の液体が入った瓶が並べられていたり、ピッケルやハンマーなどが置いてあったり、網や、釣り竿みたいなものが並べてあったりした。しかし、正直見てるだけじゃ何が必要かわからず、困ってしまった。


 俺は意を決して、カウンターの向こうに座っていて腕を組んで寝ている男性に声をかけた。

「あの、すみません」

しかし、男はピクリともしなかった。俺は仕方がなく、次は少し大きな声で

「あの、すみません!」

と叫んだ。

その瞬間、男はびくっと反応し、勢いよく立ち上がった。


「おっと、すまねぇ! 寝ちまってた!」

起き上がった男性の背は二メートル近くあった。すね毛を腕毛もボーボーで非常にワイルドな印象を受けた。年は四十歳くらいに見えた。


「すみません。ちょっと聞きたいことがあって」

「おっ、見かけない顔だな。なんていう名前なんだい? 俺は店主のハラドだ」

「影山絢斗といいます」

「珍しい名前だな。カゲヤマとアヤトどっちが名前なんだい?」

「アヤトです!」

「そうか、それで、今日はどういった要件なんだい?」

「実は……」


 俺は冒険者になるために冒険者養成所に入りたいことやそのために狩りをして金を稼ぎたいことを伝えた。


「なんだそんなことか? お安い御用だ。初めての狩りに必要な道具をそろえればいいんだな?」

「はい」

「ちなみに予算はどれぐらいが良いんだ?」

「すみません実はあまりお金を持っていなくて、二万ギルぐらいでお願いできますか?」

「二万か、ん? お前さん武器は持っているのかい?」

「あっ……、はい。一応、持っています」

 

 俺は武器のことを聞かれて新しく用意してもらおうか一瞬悩んだが、初心者が行く場所のモンスターぐらいじいちゃんの刀でも切れるだろうと思いそう口にした。敵がとんでもなく強かったらどうしようという不安もあったが……。


「それなら、なんとかなりそうだ。少し待っててくれ、基本的な物を持ってくるから」


 店員はそう口にするとすぐに棚の方に歩き出し、手際よく道具を集めていった。

わずか五分ほどの時間で店員は戻ってきて、俺の前に集めてきたアイテムを並べてくれた。


「聞いておくのが遅れちまったが、ダンジョンに行くわけじゃないんだよな。地上のモンスターの狩りでいいんだよな?」

「はい」

「良かった。ダンジョンに行くんだったらそんな服じゃ危険だからな。だったら俺が今集めてきたもので大丈夫だ」


 そう言うと店員は時間をかけて集めてきた道具についてわかりやすく説明してくれた。


 店員がおすすめしてくれたのは怪我の治療に使うポーション。モンスターから毒を受けたのための毒消し。町に帰ってくるためのコンパス。最低限の暖を取るための焚き火台。そしてそれらの荷物を入れるためのアイテムボックスだった。


 話を聞いたうえで俺はおすすめの物をそのまま買うことにした。アイテムボックスは一万ギルと、高価だったが、百キロまでの重さの物だったらいつでも入れたり出したりすることができるらしく、冒険者には必須のアイテムだと言っていた。

 

 一万円のやつはこれでもかなり安いものらしい。普通の冒険者は十万ギルを超えるようなもっと収納性能が高い奴を使っていると店員は言っていた。


 ポーションが三つで六千ギル、毒消しが一つで千ギル、コンパスが三百ギル、焚き火台が五千ギル、そしてアイテムボックスの一万ギルで、合計二万二千三百ギルの出費だった。


「すみません。あと一つ聞きたいんですけど、初心者におすすめの場所ってありますか?」


「ああ、それなら北にある草原の狩場が良いと思うぞ。生息してるモンスターも弱くて初心者向きだ。詳しくはエアライド乗り場で聞くと良いよ。店を出て左に行くと門があって、門を出て右手側が乗り場になっているから」


「ありがとうございます」


 俺はカウンターの上に置かれているアイテムを持とうとしてあることに気がついた。

「ハラドさん! すみません。うっかりしてました! 買った物を入れるこれを入れるバッグも買って良いですか?」


「あっはっは!!」


 俺の言葉を聞いてハラドは一瞬目を悪くすると、大声で笑い出した。


「お前、変なこと言うやつだな! 俺がなんのためにアイテムボックスを用意したと思ってるんだ」


「あっ」


俺は間違いに気づき、恥ずかしくなった。

「あっはっは! 冒険者はバッグなんて持たないんだ! 持つのはアイテムボックスだけよ! 」


「なるほど……、すみません……」

「いや、良いってことよ! なんかあんた、初々しくて面白いな!」


「よし。じゃあアイテムボックスに物を入れてみな。物を近づけると吸い込むように入っていくから」

「こうですか?」


 俺は、ハラドさんに言われた通り、畳んでも三十センチはある焚き火台をアイテムボックスに近づけた。すると、みるみるうちに焚き火台が小さくなりながら中に吸い込まれていった。


「すげぇ!」

俺は思わず歓声をあげてしまう。


「簡単だろ? 取り出す時は入れているものをイメージして手を入れてみた。焚き火台を掴めるはずだ」


「おお!」

ハラドさんのいう通りやってみると簡単に焚き火台を出すことができた。


俺は店を後にし西門の近くにあるエアライド乗り場に向かった。






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