6章 憶えてるわけないか

(虎太郎視点)


「津田、止まるなっ!一瞬の隙が致命傷になるぞ」

「はい」

「ステップからの刻み突きは、左足の踏み込みと同時に左手で素早く突けっ。その時に重心が前に潰れないように必ず後ろ足に溜めを作りながら、利き手の右で相手の胸を突き押して、角度を変えて戻るのを忘れるなっ」

「はいっ」

「必ずステップは刻んだまま、間境まざかい(相手の攻撃が届く距離)から抜けろ」

「はいっ」


 放課後、高校の空手道場で稽古部活中の虎太郎。

 日本代表を数多く輩出して来た白修館高校の空手部は、毎年全国から多くの生徒が集まって来る。


 残暑厳しい9月。

 窓や扉が全開放されているが、汗が滴るほどの外気温だ。

 それプラス、ハードな練習メニューをこなす部員達は、己の限界に挑んでいるようなもの。


「松永、今の上段蹴り、良かったぞ」

「押忍っ」


 虎太郎が得意とする組手は、技は勿論のこと、体幹や俊敏さが必要とされ、中でも相手の体全体動きが見えているかどうか。

 相手の動きを見極め、自分の間合いが読み取れているかどうかが鍵となる。


 相手との間に一定の距離を保ちつつ、小刻みなステップを踏みながら間合いを取り、一瞬の隙を狙って寸止めで技を繰り出すのが組手だ。


 右手が利き手ならば、右足右手は後方に位置取りし、左足左手を前方に構え、軽くジャンプしながら相手に技を繰り出すタイミングをはかるのが基本の姿勢だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る