第13話
「…何名様でしょうか?」
平然とした態度を保とうと必死だった。
心の中の混乱を隠すために、冷静を装った。
「一人だよ」
「ご案内します。こちらのお席にどうぞ。メニューが決まりましたらお声がけください」
震える手でメニューを渡し、彼を席に案内した。
どうして今、よりにもよってここで再開してしまうんだろう。
厨房に戻ると律が声をかけてきた。
「莉乃の知り合い?」
知り合いなんかじゃない。そんなものよりももっと…
「そんな感じ、」
悟られたくなくて短く答えた。
過去の思い出が次々と蘇り、胸が締め付けられるようだった。
「…注文俺が取りに行こうか?」
律は何かに気づいたみたいで、そう言ってくれた。
だけど、ここは自分で対処したほうがいい。
自分の問題は自分で解決しないと。
「大丈夫」
強がりながらも、心の中では不安が募っていた。
再び恭介さんのテーブルに向かうと、心臓が早鐘のように打ち始めた。
心の整理がつかないまま、彼の前に立った。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
声が震えないように努めたが、内心の動揺は隠せなかった。
彼の目を見つめると、過去の痛みが蘇ってきた。
「莉乃」
彼の声が、私の心に響いた。
私は、聞こえないフリをした。
「ねぇ、どうして無視するの?」
久しぶりに聞いた恭介さんの優しい声。
過去の思い出と現在の感情が交錯し、言葉が出てこなかった。
恭介さんが、私の手首を掴んだ。
「…離してください」
彼の手を振り払おうとしたが、力が入らなかった。
「話をしよう」
恭介さんの声が冷静であることが、逆に私の心を揺さぶった。
「何の話ですか」
どうして今更現れて話を聞けなんて。
そんなの、自分勝手すぎる。
「俺はまだ納得してない」
納得?
笑わせないで。
「何をですか?そもそも、どうしてあなたが納得する必要があるんですか?」
私は、怒りのあまりつい大きな声を出してしまった。
「俺の話も聞いて」
言い訳なんて聞きたくない。
「何を聞けって言うんですか?私の誕生日にあなたが浮気をしたことですか?もう、なにもかも終わった話です」
言葉が溢れ出し、止まらなかった。
「俺はまだ終わってない」
「仕事中です。迷惑です」
冷静を取り戻し、静かな声でそう言った。
「何時に終わるの?終わるまで待ってるから」
彼の言葉に、心が乱れた。
「教えたくありません。お話することなんてありませんから待たないでください。」
彼の目を避けるように、視線を落とした。
「莉乃、」
恭介さんが私の名前を呼ぼうとしたその時だった、
「俺の従業員に何か?」
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