シェフが私のことを好きになる確率

第11話

「莉乃は努力してここまで来たんだ。莉乃だけじゃない。お前たち全員がそうだ。だからこそ、互いを尊重し合い、支え合うべきだろ」

朱莉はシェフの言葉に一瞬戸惑ったが、すぐに怒りを取り戻したように見えた。

「でも、私だって努力してるのに、！どうして私にはチャンスがないんですか！？」

シェフは静かに朱莉を見つめ、深く息をついた。

「朱莉。お前の努力もちゃんと見てる。でも、努力だけじゃなくて、チームワークや他人を尊重する姿勢も大切だ。莉乃はその両方を持っているからこそ、スペシャルメニューを任せたんだ」

朱莉はその言葉に反論しようとしたが、言葉が出てこなかった。

スタッフたちも静かにその場を見守っていた。

「朱莉、これからもお前の成長を期待している｣

朱莉は目を伏せ、何かを考えているようだった。やがて、彼女は深く息をつき、静かに言った。

「ごめんなさい、莉乃。私が間違ってた」

私は驚きながらも、優しく微笑んだ。

「大丈夫だよ、朱莉。これからは一緒に頑張ろう」

その言葉に、朱莉も微笑み返した。

｢…だけど、他人を傷つける行為は許されない。冷蔵庫の件については、後で話し合おう」

シェフの厳しい言葉に、朱莉はうなだれた。

「わかりました…」

その後、シェフはスタッフたちに向き直った。

｢お前たちも、実際に見たわけじゃないのに憶測で莉乃を犯人と決めつけたことは間違ってるからな｣

スタッフたちは一斉に頷き、再び元の仕事に戻った。

莉乃も深呼吸をして、気持ちを切り替えた。

｢シェフ、ありがとうございました｣

｢当たり前のことをしたまでだ｣

そう言って、優しく肩を叩いてくれた。

シェフの温かい言葉に、私は少しだけ涙ぐんだ。

私は深呼吸をして、気持ちを切り替えた。

その日の仕事が終わり、私は更衣室で制服を脱いでいると、朱莉がそっと近づいてきた。

「莉乃、本当にごめん。私、嫉妬してたんだと思う。あなたが特別扱いされてるように見えて、悔しかった」

私は朱莉の言葉に驚きながらも、優しく微笑んだ。

「朱莉、気持ちは分かるよ。でも、私たちは同じチームなんだから、これからはお互いを支え合おうね」

朱莉は涙を浮かべながら、うなずいた。

「ありがとう、莉乃。でも、私、もうここにはいられない」

なんで、

もう別に怒ってないのに、

「え、どうして、私のことなら気にしなくても」

「違うの。あれから考えたんだけど、やっぱり自分の行動が許されるとは思えないし。じゃなくて、莉乃は優しいからいいって言ってくれるけど、許されるべきじゃないと思う」

「でも、」

確かに、してはいけないことをした。だけど、朱莉だって今まで頑張ってきたのに

「皆にも迷惑をかけたから」

「考え直して、みんなでまた一緒に頑張ろうよ」

と私は必死に止めた。

だけど、朱莉は首を振った。

「もう決めたの。ここを辞めることが、私にとっても、みんなにとっても一番いいと思う」

その言葉に、私は言葉を失った。

朱莉は本気で辞めるつもりなんだ。

「でも、朱莉…」

「ありがとう。でも、これが私の決断だから。最後にちゃんと謝りたかった。ほんとにごめんなさい」

そう言うと、朱莉は静かに更衣室を出て行った。

私はその背中を見送りながら、どうすることもできなかった。