シェフが私のことを好きになる確率

第10話

深呼吸をしてから続けた。

「犯人を晒すことが正しいとは思いません。確かに、私は傷つきました。でも、その人も何か理由があったのかもしれません。なので、どうしてそんなことをしたのか理由を知りたいです｣

シェフは私の言葉をじっと聞いていた。そして、ゆっくりとうなずいた。

「分かった。莉乃の意見を尊重する｣

その時だった。

突然、ドアが勢いよく開いた。

朱莉が怒りに満ちた表情で部屋に入ってきた。

「あんた、正義の味方のつもり！？何で私を庇うのよ！」

と、朱莉は声を荒げた。

まさか、朱莉が犯人だったなんて、

彼女とは同期でそれなりに仲良くしていたのに、

その怒鳴り声が他のスタッフにも聞こえ、皆が驚いてこちらを見た。

「え、朱莉がしたことだったの…？」

と、誰かが呟いた。

朱莉は一瞬黙り込んだが、やがて深いため息をついた。

「そうよ、私がやったのよ。莉乃が特別扱いされて、スペシャルメニューを任されたことにイライラしてた｣

｢特別扱いなんてされてないよ…！｣

｢嘘つかないで！閉店後にシェフに二人きりで料理を教えてもらってるところを何度も見たんだから！」

その言葉に、スタッフたちは驚きと困惑の表情を浮かべた。

「冷蔵庫を故障させたのも私。全部私がやった」と、朱莉は続けた。

その時、他のスタッフの一人が声を上げた。

「じゃあ、莉乃がスペシャルメニューを任されたのは、シェフに媚びを売ったからだってこと？」

その言葉に、他のスタッフたちも怪しい目を向け始めた。

「ち、違いますっ、私は何も…。シェフは私の努力を見てくれていただけです、」

私は必死に否定した。

だけど、疑いの目は消えなかった。

その時、シェフが前に出て、静かに話し始めた。

「一旦落ち着け。莉乃にスペシャルメニューを任せたのは、莉乃の努力と才能を見込んだからだ。これは決してコネや媚びではない。実際にスペシャルメニューの反響は良かっただろ｣

シェフの言葉に、スタッフたちは少しずつ納得し始めた。

「それに、厨房に立っている全員が、俺から個人レッスンを受けてる。だから、莉乃だけが特別扱いされてるわけじゃない」

と、シェフは続けた。

その言葉に、スタッフたちは驚きの表情を浮かべた。

「そう、だったんだ…」

そして、シェフは怒りを抑えながら、静かにしかし力強く言った。

「何も知らねぇのに勝手に知ったような口利いて、莉乃のこと傷つけてんじゃねぇよ」

その言葉に、朱莉は一瞬怯んだように見えた。

スタッフたちもその場の緊張感に息を呑んだ。