第9話
「髪の毛が入ってるじゃないか!」
お客様の怒鳴り声が聞こえてきた。
私は驚きと不安でいっぱいになった。
まさか、私の髪の毛…?
シェフがすぐに対応に出た。
「申し訳ありません。すぐに新しい料理をお作りいたします」
シェフは冷静に対応し、お客様を落ち着かせた。
私はまた作り直し、スペシャルメニューの提供をした。
その後、厨房に戻ると、
他のスタッフが私を疑いの目で見ていた。
「莉乃の髪の毛じゃないの?」
誰かが言った。
「そんな、」
シェフは見ているだけで、何も言ってくれなかった。
私の髪の毛じゃないと証明することもできないし、言葉を失った。
「待ってください。莉乃はいつも髪をしっかりまとめているし、そんなミスをするはずがないです」
律が私を庇ってくれた。
「でも、髪の毛が入っていたのは事実だし、誰かのミスだろう」
と、別のスタッフが反論した。
見兼ねたシェフがスタッフを宥めた。
「確かにミスはあったかもしれない。でも、故意じゃないんだから、これから注意していけばいい。もうこれでこの話も終わりにしよう」
その言葉に、スタッフたちは一瞬納得したように見えた。
だけど、私は心の中で不安を感じていた。
何も言わないってことは、シェフもそう思ってるってことなんだよね。
結局、誰の髪の毛が分からないまま、うやむやになり一週間が過ぎた。
そんなある日の夜、
厨房の片隅にある小さな部屋にシェフが私を呼び出した。
この前の件で私のことをクビにするのかもしれない。
そう思って身構えていたのに、
「この前は大変だったな」
「え…?」
予想外の言葉だった。
大変だったなって…
「私のこと、信じてくれてたんですか、」
「…信じてたからこそ、冷静に対処するために表立って庇わなかったんだ」
「そ、うだったんですね」
そうとも知らずに、シェフに信じてもらえなかったんだって勝手に落ち込んでた。
「それで、実は…裏で色々と調査を進めてたんだけど、莉乃を陥れようとした店員がいたことが分かった」
私を陥れる…?
一体誰が、どうして。
いや、そんな事よりも、
「ほ、ほんとに、誰かの仕業なんですか?」
何かの間違いじゃ、
いや、そうであって欲しい。
「残念だけど、監視カメラにも映ってたし、スタッフの証言もとれたから」
「そんな…」
私は驚きと悲しみでいっぱいだった。
「莉乃に聞きたいことがある。犯人をみんなの前で晒すべきかどうか、莉乃の意見を聞かせてほしい」
シェフは真剣な表情で尋ねた。
私は一瞬考えた。
犯人を晒すことで、私の名誉は回復されるかもしれない。
だけど、それって本当に正しいことなのかな。
「シェフ、私は…」
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