第6話
地下室か。ここは朱里の家の地下室で間違えないのか。天国や地獄ではないような気がする。……死んではないみたいだ。
俺は恐る恐る横を見た。横には息が荒れてる朱里が精神転送装置に座って居た。どうやら、朱里も無事のようだ。
……冷や汗が止まらない。一秒でも遅かったら銃弾が当たっていた。なんだったんだ。あの男は。普通の人間ではない。倫理観が欠如している。
「だ、大丈夫が」
俺は朱里に訊ねた。
「う、うん。どうにか」
「それならよかった」
思うように言葉が浮かばない。今さっきまで危険な状況だったから仕方が無い。
「ぶ、無事でよかったね」
「……そうだな。今日の事は誰にも言うなよ」
信じてもらえないだろうし、話した奴が興味本位でイリガールエリアに行ってしまうかもしれない。事件に遭遇するかもしれない。それに対して、責任は取れない。けど、話してしまったと言う罪悪感は絶対に感じるはず。
「誰にも言えないよ。それに言っても信じてもらえない」
「そうだよな。信じてもらえないよな」
「うん。そうだよ」
朱里は頑張って笑顔で居ようとしている。それを見るのが辛い。
「……ちょっと落ち着いたら帰るわ」
疲れた。もう身体がクタクタ。遊ぶ元気もなければ遊ぶ気持ちにもなれない。
「ごめんね」
「謝るなよ。今日はありがとうな」
言える言葉がこれしかなかった。情けねぇな、俺って。
朱里の家を後にして、自宅に向かっていた。
午後4時。昼から夕方になる時間帯。空もオレンジ色に染まりつつある。
かなり精神的には安定してきた。身体もいい感じ。それにしても、あんな映画みたいな出来事が現実で起きるとは。正しく言えば、仮想空間で起きるとはか。まるでハリウッド映画の出演者になったみたいな感覚だ。嬉しくはないけど。
「逸脱者。覚醒の時は近いづいて来ているな」
零無愛の声が聞こえた。そして、次の瞬間周り全体がこの前の夢と同じ白黒の世界になった。自分の身体も白黒の状態になっている。
「……ここって、まさか。いや、夢だろ。あれは」
「夢ではない。現実の出来事」
声のする方を見た。そこにはパッチワークのテディベアを抱きしめている零無愛と七志が居た。
「どうも。お久です」
七志は気の抜けた声で言った。やはり、顔はない。
「……何のようだ。現実って本当なのか?」
「質問の多い奴。七志、答えてやれ」
「もーう、零無愛さんはめんどくさがり屋なんだから」
「……なんだ。たてつくのか」
零無愛は七志を睨んだ。
「いえ、そんな事はありません。はい。断じてございません」
「それなら答えろ」
「承知しました。えーっとですね。まず、何の用かと言いますと、経過確認です。覚醒するまでの」
「……覚醒?」
「すみません。まだお教えする事が出来ません。いわゆる、守秘義務ってやつです。あれ、使い方合ってるのかな。この言葉」
調子が狂うな。もしかしたら、俺は零無愛より七志の方が苦手かもしれない。
「それならそれはいい。現実ってどう言う意味だ。明らかに現実離れしてるだろ。この状況は」
「あーそれはですね。我々の世界からしたら現実の出来事なんです。貴方が住む世界の外側の世界、ミュトスでは」
「……ミュトス」
「えーっと、これって言ってよかったんですかね?」
七志は零無愛に訊ねた。
「……構わない」
「よかったみたいです。はい」
「もう一つ質問いいか。お前達は何者なんだ」
「あ、質問増えた。それはまだお教えできません」
「なぜだ。覚醒する前に教えても意味がないからです」
「……意味がないだと」
「はい。意味がありません。あーもうお別れの時間ですね」
七志は腕時計を見て言った。
「おい、ちょっとまだ聞きたい事が……え、なんだよ。その建物」
突然、零無愛と七志の背後の超巨大な図書館のような建物が見えた。
「見えるようになりましたか。いい兆候です」
七志は嬉しそうに言った。
「それじゃ、また経過確認に来る。逸脱者よ」
「さよなら」
零無愛と七志は煙のように消えた。
「ちょっと、おい」
消えてしまった。なんなんだ、あいつらは。それにあの建物は。
――現実世界に戻った。周りは何も変化していない。時間も経っていないみたいだ。訳が分からない。分かりたくもない。
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