第104話 VS黒騎士 最終戦(2)
帝国の街並みの上空で、2台のトラックが激しい衝突音を巻き散らかしていた。
「さらにやるようになったな、暗黒王!」
「楽じゃねぇ旅をしてきたからなっ!」
「それは自分だけだと思うな……このレベルの差が、戦力の決定的差であることを教えてやるっ!」
「そんなもん、今ここで踏み越えて行く!」
2台のトラックは共にトラック気を纏い、初めから全力で激突を続けていた。
「フ……楽しいな、運」
その激突の最中にあって突如、黒騎士はいつもの調子で運に語り掛けた。
「何がだよ?」
「こんな風にお前と本気でぶつかり合う日が来るとは思わなかった」
「……俺様もだ」
「こんな機会も恐らく最初で最後だ。腹を割って話がしたいのはオレだけか?」
「……」
運は言い掛けた言葉を飲み込んだ。
「社長、1つ聞いても良いか?」
「構わない」
「社長の目指す神なる座標って所には、何があるんだ?」
「何も無いだろうな。ただ、多くの世界を見渡すことが出来るだけだろう」
「……アンタも、生きることに疲れちまったクチか?」
「お前も、歳を重ねればいずれ解るだろう」
「なら、わざわざそんな所に行かなくてもアンに来て隠居でもしないか? 人とのしがらみが嫌なら特に配慮をするから」
「暗黒王ともあろう者がお優しいことだな。だが、これはオレの長年の夢だ……これは最早、神なる座標に辿り着くことでしか叶えられない」
「夢が叶う場所なんかいつだって自分の目の前だ。何もそんな風に決め付けなくても」
「もう、そう簡単には曲げられない大人なんだよ」
「……こんな形になっても、アンタが心配なんだ」
「ははは。とうとうお前に心配されるようになったか」
「神なる座標なんてものは、本来は高次元体のためにあるような視点なんだろう? そんな所に出向いて、高次元体に目でも付けられたらどうするんだ」
「ふ……なるほど、そう言うことか」
黒騎士は軽く笑っては一際強くトラックを当て、運を突き放した。
「お前はまだ知らなかったのか、この世界群の真実を」
「世界群? の、真実?」
2台は激突を中断し、上空に停滞しながら会話を始めた。
「エヒモセスやオレ達の世界が、高次元体所有の端末内に存在する世界群の一部であることは知っているな?」
「……老師から聞いた。だが、例え高次元体に創られた存在であったとしても……」
「違う違う。そんな心の持ち様を話したい訳では無い……運。お前は世界の真理において、その高次元体が最後にこの世界群を訪れたログを見たことがあるか?」
「いや? ないな」
「ならば教えよう。高次元体が最後にこの世界群を訪れたのは、もう数億数兆の歳月を超えた……幾星霜の果ての果てだ」
「……そんなに前なのか」
「ああ。それでも高次元体にとっては昨日今日の感覚なのかも知れないがな」
「途方もねぇ話だな」
「高次元体により創られた極めて優秀なシステムは、この世界群において次々と新たな世界を生み出していく……そう考えるとエヒモセスやオレ達の世界は比較的新しい世界であるような気もするな」
「はは。そんなに世界を創ってどうするんだろうな。高次元体は来ないのによ」
「案外そういうものなのだろう。お前だって、買ったまま眠っている本やゲームの1つや2つ、部屋に無いのか?」
「確かにあるな」
「あるいは、新しいゲーム機が発売されて眠りについたのが、この世界群なのかも知れん」
「だからもう長い間、高次元体はこの世界に来ていないんだな」
「そうだ。つまりこの世界群の真実は、高次元体が消費し尽した後のコンテンツだということだ」
「見も蓋もねぇ話だ」
「だが、消去されなかっただけマシだ」
「だな」
「子供の頃にたった一度だけ遊んだことがある、大して印象にも残っていないようなゲームの勇者が、その後乱心して世界を滅ぼしていたと大人になってから知ったとするだろう……? 運、お前ならそんな勇者を許せないと憤慨し、始末しに赴くだろうか?」
「いや、そんな些細なことは気にしてられねぇな」
「だろう? だから、今更そんな世界群でオレが何をしようと、高次元体は何もしない、気にも留めないのだろうよ……例え、オレが神なる座標に辿り着いたとしてさえ」
運は暫く押し黙った後、両手で自分の頬を叩き、強く前を見た。
「解ったよ……どうやっても神なる座標を目指すと言うんだな」
「そうだ」
「神はいない、いや、神は来ない……枢機卿の言葉だと思うと信者が気の毒だぜ」
「なら、お前が代わりに導いてやれば良いさ……オレが去った後でな」
「ぬかせ。俺様は思い通りにさせねーって言ってんだよ」
「ははは。ならば、そろそろ戦いを再開と行こうか」
「望むところだ!」
2台のトラックは再び激突を始めた。
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