第103話 VS黒騎士 最終戦(1)


「まずは例によって挨拶……と、言いたいところだが」


「……どうした? 猪突猛進とばかりに突っ込んでは来ないのか?」


「始める前に、まずはこれをやって置かないといけないんでな。ナヴィ、俺様の考えは解ってんな?」


「勿論です、マイダーリンマスター!」


 パチンと指を鳴らすクロノス。すると一瞬の内に聖堂内に入り込む光が変化する。


「? 何をした暗黒王」


「外でも見てみろよ」


「これは……貴様、時間を巻き戻したな」


 帝国は雷槌が落ちる前の活気ある姿を取り戻していた。


「解っているのか? そんなことをすればお前のレベルも元に戻る……下がったレベルではオレに勝てんぞ」


「そんなこと、やってみなけりゃ解んねーだろ?」


 そう笑い飛ばす運の手元に、雷槌を放つ前に巻き戻された雷雲が帝国中から収縮して集まり、消えた。


「さ、これで心置きなくやれるぜ」


「自ら勝機を手放した奴がっ!!」


 フォークリフトモードとなった運と黒騎士は同時に飛び出してぶつかり合った。


 武器による鍔迫り合いでは当然の如く黒騎士に分がある。


「見たことか! この力の差を!」


「丁度良いハンデだろ?」


「減らず口を!」


 その激突を前にしばし呆然と見ていた久遠と五十鈴も我に返る。


「五十鈴さんっ! 私達も加勢しなきゃ!」


「はいっ! みんなで勝ちましょう!」


「2人共手を出すなっ!」


 2人に背を向けたまま運は叫んだ。


「今度こそ、社長は俺様1人で越えて行かなきゃならねぇ!」


「そんなこと言ってる場合!? お兄ちゃん押されてるじゃん!」


「そうです。私達だって、運殿をお支えしたくて共に来たのですから!」


「だ、そうだぞ暗黒王。どうした? 愛しの妻達に助けて貰わなくても良いのか?」


「元々、そんな気持ちで勝てるとは思ってねーよ!」


「だろうな……だが、オレも最初から簡単に思い通りにさせるつもりはねーんだ」


「何だと?」


 黒騎士は力の限り斧槍を振り切って運を後方に突き飛ばした。


「ここはオレの本拠地だ……何の保険も無しに待っていたとでも思うのか?」


 そう言って黒騎士は聖堂の出口の方へ斧槍を向けた。


「よもやとは思ったが、予定が狂ってしまったようだ……君達にも接客を頼めるかな?」


 黒騎士が言うと、聖堂の扉の方から歩み出る人影が2つあった。


「やあ、久しぶりだね」


「こんな形の再開となってしまい、とても残念です」


 それはエアロスターとローズの夫妻であった。


「エアロスター夫妻……アンタ達もか」


「確か、枢機卿の縁戚だったんだっけ」


「あのお優しい領主様夫妻がどうして……?」


 運達3人は驚きを隠せなかった。


「彼等にもまた、オレが去った後のことを任せてある……お前に渡して残るはずだった世界の半分を、な」


「……最初からグルだったってのかよ?」


「そうではない……彼等はオレが認める真に人の幸せを考えられる人格者さ。公国の一領主にしておくのが惜しい程にな」


「だが、この世界じゃ理想やお気持ちだけで統治は出来ねぇとアンタも知ってんだろ?」


「心配には及ばないさ。彼等もまたバスの運転手だからな……この意味は解るな?」


「……轢く側の強さって訳か」


「その通り。お前の妻達もチート級だそうだが簡単には突破できんぞ……オレ達の戦いの邪魔はさせん」


「くそ。五十鈴は同族が世話になってる以上領主相手に戦い難いだろうし、久遠に至っては1人じゃ戦闘力が……」


 運は心配そうに後方の久遠と五十鈴を見やった。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん!」


「とは言っても、お前戦えないだろ」


「大丈夫! レインボー久遠ちゃんなら私にだって戦えるっ!」


「ぽよっ! ぽよぽよっ!」


「またトラックで一緒にお出掛けしたいからだって! サフちゃん、この土壇場で勇気を振り絞ってくれたんだよっ!」


「サフランお前……頑張ったな、助かるぜ!」


「ピーちゃんもいるし、私は負けないっ!」


 久遠はサフランとピーちゃんを従えて力強く構えた。


「私だって、そんな中途半端な覚悟でここに立っていませんよ! 早々に勝利を収めて、運殿に加勢したいくらいなんですから」


 五十鈴も当然とばかりに臨戦態勢である。


「はは。俺様1人でやるって言ってんのに頼もし過ぎるだろ」


 後顧の憂いが無くなり黒騎士に向き合う運。


「なら2人共、そっちは任せたぞ!」


「オッケー!」


「お任せあれ!」


 背後からの返答を受けて運は口の端を吊り上げた。


「そういうことだ。これでサシだな社長」


「そのようだな……しかし、ふふふ」


「どうした? 気味の悪い笑い方しやがって」


「すまんな……エアロスター夫妻の采配については万が一に備えたつもりだったのだが……どうやらオレも、心の底ではお前と正面から戦いたかったのだと、今になって気付いてしまったよ」


「ならトコトン突き合おうぜ? 本気でよ」


「上等だ……表に出ろ暗黒王。ここからはトラック同士のガチンコ勝負だ」


「望むところだ」


 運と黒騎士は睨み合ったまま聖堂を出、共にトラックで帝国上空を駆けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る