第100話 暗黒王の凱旋
人の口に戸は立てられぬ以上、物事の伝え方は非常に重要だ。
具体的には、勇者が魔王を倒したのか、暗黒王が魔王を殺害したのか。
あるいは、聖女が聖獣を従えたのか、魔女が聖獣を捕らえたのか。
それまで魔王ヴェルサティスが統治していたと信じられてきたレソツ魔王国が新たなる魔王カスケディアのもと変貌を遂げたと伝われば、暗黒王が傀儡となる魔王を擁立したと考える輩も当然のように出てしまう。
そんな心無い噂話を耳にした運はその日、一人で自室に閉じ篭って枕を濡らした。
ともあれ旅を終えた運達は新たな仲間達を得てアン王国へ戻り、再び日常を取り戻した。
アン王国とカヨタ獣王国はめでたく友好的な国交が正式に開始され、運とネコ耳王女アクトロスの婚姻も正式に結ばれた。
決して王女を差し出させたのではない。
レソツ魔王国に至っては、久遠の不穏な動きのせいか、運も預かり知らぬところでアン王国へ合併されることとなり、何故か魔王カスケディアも運に嫁いで来ることとなった。
決して自作自演ではない。
また、これによりアン王国は大陸中央の荒野から広大なテア山脈、旧レソツ魔王国を支配下に置き、エヒモセス全土の実に約半分をその手中に納めることとなっていた。
ラグナに至っては、暗黒王の妻ダイナの母親であるばかりか、元々エヒモセスで神格化されていた原初のドラゴンであることもあり、ただただ畏れ敬われる存在として崇められていたが、何故か夜な夜な暗黒王の寝室に忍び込もうとする姿が度々目撃され、ダイナを始めとする王妃達からは不審な視線が向けられていた。
疑惑の聖獣フェニックスは後々、久遠の聖なる力に惹きつけられた正真正銘の聖獣であることが明らかとなる。
が、それは謀略の魔女が自身の神格化を謀るための欺瞞ではないかとの噂も生じさせ、聖獣としての立場に更なる疑惑を生じさせている。
しかしそれはともかく、当の本人は久遠によって『ピーちゃん』と命名され、サフランと共に仲良く飼い慣らされている。
そのせいもあってか、暗黒王も含め、最早久遠に逆らおうとする者は存在しなかった。
アン王国全体としては、帝国以外の周辺各国とは極めて友好的な関係が築けていたこともあり、もはやエヒモセスを筆頭する大国へとのし上がっていた。
「久遠、五十鈴。話がある」
真面目な顔をして運が言った。
「とうとう、来たね」
「時空精霊の件、ですね」
久遠と五十鈴は目を合わせてから答えた。
「俺達は時空精霊について全く情報を持っていない」
「トラ仙人さんが長い年月をかけてなお、見つからなかったんだもんね」
「闇雲に探しても望みは薄いでしょうね」
運は深く頷いた。
「だが、時空精霊を従えていそうな者について、心当たりはある」
「一人はキャンター枢機卿。もう一人は……黒騎士スーパーグレート、だよね?」
「運殿、遂に決心なさったのですね」
「ああ」
運は玉座から立ち上がって宣言した。
「決着をつける時が来た」
久遠と五十鈴は誇らしげに運を見た。
「これまで共に苦難を乗り越えてきた久遠と五十鈴には、最後まで付き合って欲しい」
「もっちろんだよ! お兄ちゃん!」
「私も! 何処まででもお供いたします!」
「ありがとう、二人共」
運は穏やかな表情で言った。
「それで、肝心の黒騎士はどうやって探し出すの?」
「神出鬼没とのことでしたね」
「ああ。だが俺にはもう、奴の居場所に検討がついているんだ」
「お兄ちゃん本当!?」
「運殿、それは一体……?」
疑問を投げ掛ける二人を見て、運は真面目な表情で静かに答えた。
「サキユ大聖堂だ」
「「えっ!?」」
久遠と五十鈴は驚いた。
「……それは間違いないの? お兄ちゃん」
「それが意味するところは、つまり……」
「ま、そういうことだ」
運は些かの迷いも無く言い切った。
「ラスボスは、サキユ大聖堂にあり」
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