第4話
スマホに届いたメッセージを確かめ、準備しておいた封筒をポケットに突っ込んで事務所を出る。蛍光灯のチラつく階段を一階まで下りて裏口から出ると、目当ての車はすぐ近くに止まっていた。
助手席の窓を軽く叩いて、ドアを開ける。室内灯が明るく照らした車内へ乗り込み、お疲れ、と声を掛けた。
「どうだった、無事にできたか」
「ああ。おかげさんで滞りなく終わったよ。あの家にあるのは分かってたけど、まさか管理者以外に見えねえ仕掛けになってたとはな。蓋が開くまで気配すら察知できなかったわ」
溜め息をついて、内ポケットから取り出した煙草を咥える。
「勝手に接触しやがって、犯人候補から外すの大変だったんだぞ。防犯カメラに写ってないとか侵入した形跡がないとか言ってさ」
うんざりしたように言いながら、和田山はすぐさま助手席の窓を開けた。それはどうも、と答えて鼻で笑い、火を点ける。灯りも疎らな夜に最初の煙を吐き出して、シートに凭れた。ん、と短く請求する手に気づいて、ポケットから抜き取った封筒を渡す。和田山は早速中身を引っ張り出して、報酬を数え始めた。
「かわいいよなあ千春ちゃん。育ちも性格もいいし、今回のことで翳も生まれちゃってさあ。五年後にはいい女になってんだろうなあ」
「やめとけよ、最悪の呪い持ちだぞ」
和田山の戯言に苦笑して、窓外に灰を弾く。管理もできないくせに蓋を開いたせいで、骨の髄まで呪いが染み込んだ。あれは「特級品」だ。
「でも、壺はもうお前のものになったんだろ」
「一応はな。まあ『お前達の恨んでた連中は全員死んだぞ』って騙して丸め込んだだけだけど。でも千春との縁は切ってやったんだから、嘘はついてねえよ。本人の持つ呪いが強すぎて、産んだ子供は死ぬけどな。多分、彼氏や旦那も死ぬんじゃねえかな」
本人は死ななくても、周りが死ぬ。千春は一生、大切な奴とは生きていけない。
「二十万かよ、弾んだな」
明るい和田山の声にまた苦笑して、短く吸った煙を吐く。
「ああ。おかげでこっちは最強最悪のブツが手に入ったからな。これがあれば簡単に呪えて仕事が捗るから、安いもんだ」
捜査の裏で手を貸してくれるのはありがたかったが、こいつはそろそろ潮時だ。
「なら、またな」
「おう」
挨拶をして車を降り、ビルへと戻る。
――それは、許されることなんでしょうか。酷いことをしたのは、私の先祖なのに。
「さすが、本家のお嬢は綺麗ごとしか言わねえなあ」
お前ら本家が集落を捨てて出て行ったあと、残された分家がどれだけ辛酸を舐めてきたか。壺が消えたせいで起きた呪い返しで、俺の祖父母も両親も兄妹も死んだ。
事務所の前に辿り着いた時、外したままだったプレートに気づく。探ったスーツのポケットから取り出したアルミ板を、ドア横の枠に差し込んだ。『福行霊能事務所』。千春に名乗った「新葉」は、俺の名前だ。
「せいぜい、生きて地獄を味わえ」
腹の底から湧いてくる恨みを噛み締めて、ドアをくぐった。
(終)
犠牲の坩堝 魚崎 依知子 @uosakiichiko
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