第5話
友達――それは基本的に必要不可欠な存在である。
例えば、授業中のグループワークや、修学旅行の班決め。また、祭りや花火大会に行くときだって友達は必須だ。一人でそんなイベントに行ったって、楽しいとは思わないだろう。そもそも行く気にはならないが。
だからこそ、立派に青春を謳歌するためには友達が必要なのだ。
俺だって、友達が一人もいないわけじゃない。真っ当に生きていれば、必ず友達の一人や二人は出来るものなのだ。
しかし――
「エマ、今日の祭り行くのか?」
「……祭り?」
「え、知らなかったのか? 今日、市民館でやるらしいが」
「知らなかった。行かないけれど……なんで?」
――知らない?
普通、こういうのって誰かしらに誘われるものじゃないか――と思った瞬間、一つの疑惑が生まれた。
もしかして、エマ――
「そういえば……小学校楽しいか?」
何がそういえばなのかは分からないが、とりあえず自然な感じに訊いてみた。
疑惑、疑問。それは――エマに友達はいるのか? だ。
考えてみれば、俺はエマが同年代の人間と話している姿を見たことが無い。それどころか、放課後は毎日俺の家に来てみたり、家からあまり近くない公園で遊んでいたりしていた。
もしエマに友達がいないのなら、それは俺のせいなんじゃ……。
「急にどうしたの? わたしは大丈夫だけれど……」
「大丈夫って単語が出る時点で大丈夫じゃねぇだろ!」
なんで「楽しいか?」の質問に「大丈夫」で返すんだよ。絶対に何かあるだろ。
「なにか、悩みでもあるのか」
「悩みはあるけれど、でも……ごめん、話せない」
エマは少し暗い表情で俯いた。
全く関係のない、年上の俺にも話せないということは――恐らく、性別関係の悩みか。それを誰かに言及されたとか、そんな感じだろうか。
エマは妙にプライドが高い一面があるが、変なところで羞恥心が強い。ただ、人に助けを求めることを恥ずかしいと思うような人間ではないため、恐らくエマの悩みは俺には解決出来ないようなことなのだろう。小学五年生というのは、身体的にも、精神的にも変わっていく時期なのだ。それはデリケートな部分だからそっとしておいたほうがいいだろう。
かんきゅ。
まぁ、人間関係のトラブルなんてものは、基本的に時間が解決してくれるはずだ。
「コウちゃんは、祭りに行くの?」
「ああ。久しぶりにチュロス食いたい」
「私の分も買ってきて」
「はいはい」
姫様に言われちゃあしょうがない。
……ていうか。
「そうだ、エマも一緒に来るか?」
「え?」
俺が訊くと、エマはきょとんとした顔をして停止した。
もしかして何か気に障ることを言ったのかと不安になったが、どう考えても俺はただ一緒に行くかと誘っただけだ。何も問題はないはずなのだが。
「えっと、その……めんどくさい」
しばらくしてからやっと返答が聞こえた。
約二分。俺はその間に近くにあった読み途中の文庫本を読み終えた。
「分かった」
やっと返ってきたエマの答えを聞いて、俺は今から外出することにした。
チュロスを買ったらすぐに帰って、エマと一緒に食べよう。
幸い、市民館はそう遠くないのだ。
■■■
本当は、全然話せる話だった。
でも、噓をついた。わたしは変なところで羞恥心が強いみたいで、コウちゃんに好きって気持ちを伝えるのはまだそんなに恥ずかしくないけれど、恥ずかしがると恥ずかしくなっちゃうタイプなの。
ちょっと前にコウちゃんに告白した公園。あそこは、同級生の家の隣にあった。
だから、学校でちょっとからかわれた。
それを恥ずかしがったから、恥ずかしかったの。
「そうだ、エマも一緒に来るか?」
コウちゃんの誘いを、わたしは断ってしまった。
市民館はすぐ近くだから、同級生の子も沢山遊びにくるはずだから、また、恥ずかしがってしまうかもしれない。
でも、迷う。コウちゃんと二人で出かける機会は、実はそう多くない。
だからこそ、この貴重な機会を逃すのはもったいないと感じてしまう。
……迷った末に、わたしは「えっと、その……めんどくさい」と断った。
しばらく迷っていたから、コウちゃんは暇そうにわたしの答えを待っていた。ごめんね。
「分かった」
コウちゃんはそう言ってから立ち上がり、そのまま部屋を出た。恐らく、市民館の祭りに向かったんだろう。
あぁ、どうしても人の目を気にしてしまう。それが、意味のないことだと分かっているのに。そんなものを気にしたって仕方がないのだと、知っているのに。
「……コウちゃん、まだかな」
はやく帰ってきて。
やっぱり寂しいよ。
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