第9話 私はまた苦しめられるの?

 昨日の夜の社交場……それに男爵令嬢……まさか、アンナか?


「父上、お待ち下さい!」

「レアード……」

「メアリーは浮気性ではございません! 俺が完全に否定します!」


 レアード様は力強くそう言い放った。彼がそう否定してくれるのは嬉しい。が、一体誰が何の為にそのような噂を流したのか。


「メアリーは確かにフローディアス侯爵に離婚を突きつけ今はラディカル姓を名乗っている。そしてメアリーはフローディアス侯爵との結婚から1年が過ぎている……」

「そうです、陛下。私はウィルソン様とは一度も夜を共にした事はありませんし、会話すらろくにありませんでした」

「だから、白い結婚が適用された、という事だな」

「そうでございます。陛下」


 国王陛下は何度か首を縦に振る。

 ここで王妃様がちょっといいかしら? と口を開いた。


「ほんとに処女なのかしら?」


 王妃様は私を疑っているようだ。王妃様は眉を下げ眉間に皺を寄せている。


「母上はメアリーを疑うのですか?」

「だって証拠が無ければ否定も肯定も出来ませんわよ。彼女が浮気性という証拠も無いからこの話については私からは何にも言えません」

「あくまで中立という事でしょうか? 母上?」

「そうですわ。そもそもあのアンナという令嬢が流した噂なんて信憑性に乏しいですし、メアリーが処女か否かについても今は判断出来ないのです」


 噂を流したのはやっぱりアンナだった。私、彼女に何もしていないのにどうしてそこまでひどい事をされるんだろう?


「私、アンナさんに何かひどい事しましたか……?」

「メアリー?」

「私、彼女に何も悪い事はしてないですし、むしろアンナさんはウィルソン様の愛人で……子供も作って!」


 彼女への恨みつらみが止まらない。とめどなく口から溢れ出す。


「なんで私こんな目に合わなきゃいけないんですか?!」


 涙と共に全てを吐き出す。するとレアード様がご両親の目の前で私を抱き締めた。


「大丈夫だ、メアリー。俺がいる」

「レアード様……」

「俺がお前を幸せにしてみせる」


 低く芯のある温かな声が私へシャワーのように降り注ぐ。


「レアード、契約とはいえメアリーを愛する気持ちはよくわかった。だが噂を否定する材料が必要なのも事実」

「父上……」

「陛下」

「メアリーには身体検査を受けてもらう。処女か否かの確認と簡単な健康診断だ」

「……!」


 噂を消すなら、これしかない。それにウィルソン様との結婚生活が如何に酷かったのかも示す事が出来る。

 というか、国王陛下も契約結婚については把握していたのか。まあ、国王陛下だからか……。


「わかりました、陛下。受けさせて頂きます……!」

「わかった。では今から医者を呼ぶ。ここで待つように」

「はい、陛下……!」


 身体検査を受けると表明した私をレアード様はじっと見つめていた。


「いいのか? メアリー」

「ええ、私が処女である事が確認され、広まれば噂も消せますしウィルソン様との結婚生活が如何なるものかも、伝える事が出来ますから」


 体感で10分後、小柄な中年男性の医者が王の間へと入って来た。国王陛下が彼に指示をすると、医者は私についてくるように。と指示する。


「医者よ、俺も付いてきても良いか?」

「王太子様……! ぜひ、どうぞ」


 医者はレアード様もついてくるとは思っていなかったのか動揺しながらも彼の同行を認めたのだった。

 医務室へと到着すると部屋にあるベッドに仰向けになるようにと指示を受けた。


「下着失礼します……」


 薬師の女性が私が身につけている下着を脱がす。ドレスの下、下半身は何も身につけていない状態となった。

 そこへ医者が私の下半身を見、更には失礼します。と言って指を当ててくる。


「ふむ、まごう事無き処女ですな」


 これで私が処女である事がちゃんと認められた。下着を薬師から返してもらい履き直すと今度は問診が始まる。


「月のものはちゃんと定期的に来ていますか?」

「はい、来ています」

「持病はありますか?」

「ありません」


 問診が終わると、これで身体検査は終わりです。と医者は告げた。


「本当にこれで終わりだな?」

「はい、王太子様。終わりでございます。メアリー様お疲れ様でした。書類を書きますから少しお待ち下さい」


 カリカリと医者はペンを動かし、紙に何やら書いている。


「良かったな、メアリー。これで噂はしっかり否定出来る」

「そうですね。ほっとしました……」

「それにしても、アンナとか言う男爵令嬢は一体何を考えているのだろうな」

「レアード様……」

「そもそも本当にフローディアス侯爵との子を身ごもっているのかどうかすら怪しく思えてきた」

(妊婦が社交場に訪れる事はよくある。けど……)


 レアード様は腕を組みながら、そう吐き捨てるようにして呟く。

 確かにアンナはまだ、お腹は膨れてはいなかった。でも妊娠初期ならまだお腹は膨れてはいないだろうし、仮にお腹が膨れてはじめて来た頃でも、服装によっては隠す事や目立たせなくする事だって可能だ。

 私が浮気性だとか虐めたとか……私を敵視しているのは理解できてるけど、何が彼女をそのようにして動かしているのだろうか。


(確かに……アンナさんはそもそも妊娠しているのかどうか疑わしいかも……)

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