第10話

おいらは、そうまである。

歯茎がうずくのに、カミカミする玩具が無いのは、辛いのだ。

お里から帰って来て、仕方がないから水をガブガブ飲んでいたのである。

やっぱり、水だけでは満たされなかったのだ。

哀しみにふけっていると、お世話係の声がしたのだ。

おいらを呼んでいるのである。

急がなければなるまい!

おいらは、そうまなのである。

この家に居るそうまは、おいらだけなのだ。

フフン(ドヤ顔)

尻尾を振って、お世話係に可愛いアピールをしてやるのだ。

すると、何やら不思議な物をくれたのだ。

もしや、これは!

玩具なのか?

おいらは、玩具を貰えるのか?

お世話係は、先生より、おいらを選んでくれたのだ。

当たり前なのである。

あんな酷い奴の言う事なんて、聞く必要はないのだ。

おいらが楽しくないと、お世話係だって楽しくないのである。

新しい玩具は嬉しいから、尻尾も高速振動するのである。

ブンブンと勢いよく揺れている尻尾と一緒に、お尻も揺れてしまったが、おいらは早速カミカミするのだ。

しかし…

この玩具は、何かがおかしいのだ。

ツルツルしていて、固いのである。

どんなにカミカミしても、糸屑が出て来ないし、味もしないのだ。

これは何かの陰謀か?

それに…

おいらは、怪しい罠の気配を察知したのだ。

「日本犬」や、「文鳥」の鼻は誤魔化せても、おいらの鼻は胡麻化せないのである。

この玩具は、ご飯の匂いがするのだ!

美味しい匂いなのだ。

おいらの鼻は、告げるのである。

この玩具の中に、ご飯が入っていると。

そうと分かれば、力ずくでも噛み砕いてみせようぞ!

これ位、おいらの力に掛かれば…

むむっ、嚙み砕けないだと?

これは、おいらへの挑戦状なのである。

砕けないのなら、転がせば良いのだ。

おいらは天才なのである。

そして、夢中になって転がしたのだ。

息が切れて、よだれで自慢の口髭が茶色くなっても気にしない。

そんなおいらも可愛いのだ。

しかし…

ご飯が出て来ない。

これは、やっぱり齧るしかないのである。

おいらはカミカミ、カミカミ。

毎日カミカミしていたら、亀裂が入った。

やってやったのだ!

おいらの勝利なのである。

ここまで来たら、もう一息なのだ。

勢いよく噛み砕いてやったら…

おいらの歯も、砕けたのだ!

ぬぉぉぉぉぉ…

お?

良く見たら、乳歯が抜けただけであった。


焦ったじょ。

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