ワガママ③

 戦いとはとどのつまり、自身の優位の押し付け合いであり、言い換えれば、如何に相手に不利でい続けさせるかにある。

 疲弊している敵陣を攻めることもまた戦略だ。

 怯え。怖れ。忌避。嫌悪。負の感情が渦巻くその中心では司会者が、ただ淡々と任務を熟している。

 恐怖がそのまま形を成したかのような、自然界には有り得ないような形質の虫が、虫ですらない何かが、手当たり次第にオニを襲い、自由を奪い森の奥の闇へ連れ去っていく。

 先の襲撃の際にオスを殺させておいてのは正解だったと、司会者はただ考える。成熟したオスは薬の材料としては不適格だから、というのが本来の理由だったのだが、抵抗される面倒まで省けるとは考えていなかったのだ。――そも二度も同じ場所を襲撃することを想定していなかったのだが。

「――」

 今で何人捕らえたか。少なくとも十人は欲しい、だったか。足を引っ張られない分には良いが、頭数は純粋な力だ。仕事の量が増えているのだから、完遂に必要な労力も増える。伊賀のシノビを欠いた今の状態に司会者は面倒を感じていた。

「ああ、だめですよそれは。いただけません」

 小さく独りごちる。渦巻く悲鳴の中、小さな呻き声が混じる。幕府せいふが派遣したらしい兵が、何処かへ連絡を取ろうとしていた。簡単に駆け付けられる場所でもないが、不確定要素は育つ前に積んでおくに限る。

 に引き寄せた連絡手段を破壊しながら、司会者はふと思う。

 彼はどうなったか。

 あれから約二日。幾度も魔術を行使したのを確認している。その分だけ体の傷みは進行するから、或いはもう死んでいるかもしれない。

 また或いは、魔人になっているか。

 執着と、それを呼ぶことを司会者は。他のことより多く思考を割いているな程度の認識。

「――!」

 衝撃。ここではない何処かを殴られた。

 だからその姿をはっきりと認めた際に胸中に生じたものの正体もまた、彼には分からなくなっていた。

「――また、お会い出来ましたね」

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