第11話 魔法演舞祭 part1

 なんて考えていたら夏休みが終わってしまった。


 あっという間の夏休みだった。


 練習に練習を重ねて僕は強くなれた気がした。


 合間には遊びに行ったり、お祭りに行ったりして結構充実した夏休みだったように思う。


「みんな、久しぶり…ってほどでもないか。休みの間にも結構会っていたし。」


「祈里、ちょうどよかったぜ。今、夏休みに何をしていたのか話し合っていたんだよ。」


「祈里は休みの間何をしていたの。」


「訓練漬けだったよ。遊んだのはみんなとの時だけ。」


「訓練ってアンリ先生とのやつ?私たちもあったよ。大変だったなぁ。でもこれで私たちのクラスの優勝は確実だね。」


「優勝、って魔法演武祭か。そういやそんなものもあったな。」


「そんなものってそのために強くなったんじゃ…ないんだったね。」


「強くなるためだよ?」


「強くなるためです?」


「そうそう、野外演習の時に自分の未熟さを味わったからね。」


「それは俺らもだ。もうあんなつらい思いはしたくない。」


 みんなも同じことを思っていたんだもな。みんなで強くなったんだ。


 それでも魔法演武祭か、優勝したいなぁ。どうせなら。


「いやぁ、でもお祭りは楽しかったよね。唯一といってもいいほどの憩いの時間だったからね。」


「ああ、あの瞬間だけが俺らの心を癒してくれたからな。」


「いや、そんなことないよね。結構みんなで遊んでいたよね。ね、祈里君。」


 その通りなのである。結構訓練の合間に遊びに行っていた。


 街やら海やら山やら渓流やら。いろいろ、遊びに行っていた。


 それにしても、お祭りか、あれはどっちかって言うと日本式のお祭りで屋台や花火が上がってきれいで楽しかった。


 浴衣もかわいかった。


「おーい、祈里戻ってこーい。」


「え?ああ、ごめんごめん。」


「これからも魔法演武祭に向けて頑張ろうな。」


 おー、と全員一緒に意気込んだ。




あれから数日、さらなる鍛錬を積み魔法演武祭当日がやってきた。


学園全体が活気づいていてみんなやる気十分といったところだろうか。


一年生は初の学園イベントということもあり、三年生は将来のアピールにつながるため特にやる気に満ちている。


と言っても二年生にやる気がないかと言われれば、そんなことはない。


教室に入ると、ここでもみんなやる気十分だった。


「おお、やっと来たな。祈里。待ってたぜ、みんなよ。」


 クラスの男子が声をかけてくる。こんな奴いたかな。


「おいおいなんだよ、その目は。クラスメイトだろう。」


 やばいバレた。


「祈里はかかわりのない奴の顔を覚えるのが苦手なんだよ、許してやってくれ。」


 ローグがフォローを入れてくれる。


「まぁ、クラス単位で順位が付くとは言っても予選やトーナメントではライバルになるんだからなれ合う必要はないわよね。」


「それもそうだよな。祈里、ぶつかったときは本気で相手してもらうぜ。」


 この魔法演武祭は予選と本戦に分かれていて、予選は一ブロックにつき四人の生き残り制のバトルロイアルで四ブロックあって、本戦はその十六人でトーナメントをすることになる。


「もちろん、全力で相手をするよ。」


 クラスメイトと雑談に花を咲かせていると、教室にアンリ先生が入ってきた。


 それを見たクラスメイト達は僕を含めて次々に着席をしていく。


「よし、全員そろっているな。今日は待ちに待ったであろう魔法演武祭だ。自分の自慢の魔法を好きなだけぶちまけろ。」


『はーい。』




 舞台となるのはこの学園の訓練場、中央のスタジアム—とでも呼べばいいのだろうか―の周りを囲うように観客席が付いている。


 予選は三年生から始まるので観客席に座って、上級生の戦いを見ている。


 二年生の勝ち残った人の中にはクラーラさんもいた。


 相変わらずきれいな炎だった。


 いよいよ僕たちの順番になった。


 僕は第一ブロックだったのですぐに試合が始まる。


 壇上の上にはすでに数十人の生徒が経っている。


 ともすれば、試合の始まりの合図が鳴った。


 それと同時にみんなが動き出す。


「祈里、俺と戦ってくれ。」


「ああ、もちろん。」


 そう答えると、相手の子は魔法を放ってきた。


それを僕は小さな動きでかわす。


 そして、一瞬で二十メートル以上はあったその距離をつめる。


 この日のために僕は今までよりも武術を覚え、体を鍛えてきた。


 もう、僕には敗北という文字は存在しない。


 僕のスピードに空いては一瞬戸惑う。


 流石に一瞬しか隙を作れなかったのは予想外だったが、まぁ一瞬あれば一撃を叩き込める。


 あの時と同じように手に魔力を込め、盛大な一撃を打ち込む。


「うぅ。」


 さすかに声をあげながら、地面に倒れこむ。


 それからは殴って蹴って投げ飛ばしての繰り返しだった。


 魔力で体を強化しているので人ひとり気絶させるには十分な威力を伴っている。


 もちろん、残った四人の中の一人に入っていた。




 第二回戦、アルルとメルルが参戦者の中にいた。


 二人は連携して次々に手をなぎ倒していく。


 組体操のように協力して派手に動いていく。


 光と闇の魔法のコラボレーションは僕たちの目に鮮やかな光景を映し出している。


 他にも何人か目立った強さを持つ人がいる。


 まぁそのうちの、さらに何人かはアルルとメルルにぶっ飛ばされてたまたま残った二人と、アルルとメルルの四人が本戦出場することになった。




 第三回戦、第四回戦はルナとユンの圧倒的な勝利で終わった。


 まぁ、試合のルール上、それぞれ四人ずつ残ったのだが次のトーナメントで彼らが勝ち登って来ることはないだろう。


 


 続いて、トーナメントが始まった。


 最初はアルルとメルルの対戦である。


両者互いに左右の入場口から入ってくる。


先生の開始の合図で二人が同時に動き始める。


お互いに光と闇の魔法による武器を顕現する。


光の剣と闇の槍、名は確か「聖剣」と「邪槍」。


この魔法の発動自体は一般の魔法使いなら可能だが発動しながら動いたり、戦ったりするのはかなり難易度の高い魔法のはずだ。


それをこの場で使い、そして互角の勝負をしているのだから相当の鍛錬を積んだんだろう。


 二人の戦いは非常に拮抗していた。


 永遠に終わらないのではないかとも思うような戦い様だったが、ここでメルルが動いた。


 先生から習った御業を使ったのである。


 一年生は何が起こったのか分からなかったようだが、二、三年生はこれが御業であることに気がついたようだった。


 彼女の御業の名は「悪転」と言うらしい。


 以前にみんなでお互いの御業の名を明かしあう事があったが、その時は実際のところどんな能力なのかは想像がつかなかった。


 今、見てよくわかる。


 悪魔だ。彼女の能力は悪魔の能力を借り受けるものなのだろう。


 それがわかるように、コウモリのような羽と先端が矢のように尖った尻尾を生やしている。


 御業を発動した瞬間は圧倒的にメルルが押していた。


 それも目に見えるほど、圧倒的に。


 が、それも束の間、アルルの方も痺れを切らして御業を使用した。


 アルルの御業はメルルの正反対のものである。


 そこは双子の特徴なのだろうか。


 確かに得意の属性も光と闇で反対だしな。


 そんなことは置いといて、アルルの御業は「天転」といい、さっきも言ったように、メルルと反対で自分が天使になれるものである。


 ちなみに天使と悪魔は正反対の生物、いや存在である。


 生物とは少し違うかもしれないからね。


 天使も悪魔も基本的には魔法に人間より適性があり、天使は火風光の属性、悪魔は残りの水土闇の属性に強いと言うのが多い。


 ここで言う強いとは上手く魔法が使えると言うだけでなく、その属性からの攻撃に耐性があると言うことである。


 天使化したアルルの光の魔法は凄まじい威力を誇り、さっきまでの圧倒的な差を覆そうとしている。


 少なくとも互角の段階には戻ってきた。


 と言うよりも先に御業を発動したメルルに疲れが見え始めた。


 ジリジリと追い詰められる、メルル。


 もうここまでかと、会場の全員がそう思っていた時、彼女の槍を握っていた方と違う片手に魔力が集まるのを感じた。


 そして、体も少し発光しているように見える。


 これはつまり、魔法の同時並列使用。


 それも三種同時使用である。


 槍の二刀流に身体能力の向上の魔法を並列で使用している。


 これがメルルとアルルの決定的な差であった。


 メルルにできて、アルルにできないことだった。


 多分、この休みの間、並列仕様の練習をしていたのだろう。


 それでも、魔法力がアルルと互角だったのはすごいことである。


 何も、アルルが努力を怠ったわけではない。


 それどころか、アルルも普通の生徒に比べたら非常に努力家である。


 それでも、メルルの努力がアルルの努力を上回ったと言うだけのことなのである。


 


 他の試合では僕、ローグ、ルナ、ユン。


 そして、メルト・ロンド君、インラ・ロク君、プテラ・プニィさんが勝ち上がった。

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