⓪-9 追憶は白銀へ染め①


「なっ……」


 少年を撃ち抜いた瞬間、赤毛のラーレはその衝撃で壁まで吹き飛ばされた。



 少年の前に突如隻眼の長身男が現れ、ラーレの銃撃を受けた。男は最初から避ける気がなかったかのように、ラーレの左わき腹を撃ち抜き、更にラーレを突き飛ばしたのだ。


 あまりの刹那は手だったのか、足で蹴り上げられたのかすら、気に掛ける隙さえ、その衝撃で消し飛ばした。重圧によって、ラーレは吐き気を感じ、うずくまる。


 ラーレの銃撃とそれがほぼ同時、いや男の方が早かったといえる。


 細心の注意を払っていたというのに、こんなにも長身の男が室内にいたということが、気配が、殺気が察知できなかったとでもいうのか。



「ちょ、なにやってるの! だから言ったのに、僕は撃たれたって……」

「…………あなたが、撃たれるのだけは、容認、できない……」



 隻眼の男は尚も少年の前に立ちはだかり、腕で少年を抑えながら再びラーレへ銃を向け、発砲した。


 先ほどの衝撃でも手放さなかった拳銃に銃弾は命中し、ラーレの愛銃が軽い音を立て床に落下した。


「動くな、俺はまだ撃てる」



(隻眼の男。聞いていた通り、眼帯をしている。聞いたことがあるわ)



「あなた……そう、あんたがそうなのね…………お前が、所長を、撃った」



 隻眼の男との間合いは、ラーレが吹き飛ばされたことで、恐らく3mは開いた。この間合いを一瞬で詰めることなど、男にとっては容易いだろう。


 忘れないようにと言わんばかりに、ラーレの脇腹に激痛が走る。そんなラーレに、間合いを詰めることなど不可能だ。



(やるしかない)


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