⓪-8 追憶は空虚を越え③
少年は武器を持っておらず、手を銃に見立て、レイスの額に押し当てていた。少年は自身を見ようともしない。目線を合わせようともしない。
「やめてラーレ!」
「レイス、このガキはなんなの!? さっきから聞いていれば、人を馬鹿にして」
「そうだろうね。そう受け取られても仕方ないかな」
澄ました顔で達観している少年だ。無感情という言葉が似あうほど、何の感情も見受けられない。
(ふざけている。武器も持たず、あれだけの殺気を放っていたというの?)
「レイリーの娘は、生まれたばかりだったのよ! 私たちだって、手を尽くそうとしたわ。でも、どうやっても助からなかった! だって、もう心臓も止まって……!」
(駄目だ、こんな子供に銃口を向けるだなんて。違う、そうじゃない……! なんで、拳銃を握る両手が震えて、目標が定まらない!)
少年は今だにラーレに目線を合わせない。レイスを見つめたままだ。
「命は生まれ出るわけだから、いつかは尽きるものだよ」
少年は微動だにしない。動かないのは、銃口を向けられていることを、殺意を知っているからなのか、それともラーレが撃てないとでもいうばかりに。どうみても、普通の人間ではない。
「というか、レイリーは君たちを裏切ったでしょ? それも、死んだ娘が蘇生出来るなんて戯言のために」
少年は笑みを浮かべる。無表情の笑みからは、反吐が出そうなほどの気味悪さを感じる。
「レイリーが正しいことをしたなんて、思ってない。それでも、大切な娘の命なの。わかるでしょ!」
「その大切な娘を蘇生なんてしたら、新たな神とでも名乗るの?」
何の音も聞こえない。
「転生はしないし出来ない、そういう概念の宗派なんじゃないの?」
静寂が、ラーレの銃口を少年の脳天に狙いを定める。
「君は誰のために、何をそんなに怒っているの?」
「あなたは、人の死を、命を、なんだと思って」
――違う。
ラーレは本能で感じた。この少年は、普通じゃない。
気付けば、毛が逆立つような感覚だった。
「二人ともやめてください」
「いや、そもそもレイスがちゃんと話してくれていたら……」
すべての感覚が研ぎ澄まされ、少年が次にどう動くかが把握できるようだ。
恐らく悟ったであろう少年は、撃たれても特段何の問題もないと言わんばかりだ。
「いま、ここで討ち果たさなきゃ」
――理由など存在しない。
自身のすべきことは、目の前の少年を撃つことだ。
そうだ、そういう本能だったはずだ。震えもいつのまにか止まっている。
今、撃ち抜かなければ。年相応の、その顔を見る前に。
「言っておくけど、僕はそんな拳銃では死なないからね」
少年の言葉が言い終わるのを待たず、ラーレは少年の心臓を狙い、引き金を引いた。
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