⓪-7 追憶は空虚を越え②

「先に言っておくけど、あいつを撃ったのはレイスじゃないよ」

「どういうことですか。……まさか、この先にレイリーが?」

「いたらしいよ」

「まさか外から……?」


 レイスではないという謎の声の主に対し、安堵するのを拒絶したラーレはそのまま拳銃を握り締める。


「襲撃に加わる胆はなかった。命乞いがあれば、救ってやろうみたいなそういう胆はあったみたい。でも、現地を見て、裏切った者として、責任を取って自決しようとしたみたい。だけど、そんな勇気があるわけない」



(違う、あれは、自決なんかじゃない)



「撃った、というのは……」


 会話は続いている。何故、こうまでしてレイスは目の前の声の主と親しげに話すのか、ラーレには理解出来ない。


「そのままの意味だよ。裏切ってまで救おうとした娘さんが、もう助かるはずがないと、漸く理解したみたいだね。娘さんは天国へ行くから、自分はどうあがいても会うことは叶わないって嘆いてた」



(何を言っているの、このひとは)


 ラーレは拳銃を握る手に汗を感じるものの、握る手を離す気などない。重苦しい空気と重圧を、レイスは感じ取ってないとでも言うのだろうか。



「自決なんてしても会えない、組織を裏切った罪人は天国へ行くことは出来ない、それでもこのまま生きることは出来ない。だからといって、娘が生きたかったのに、生きていられる自分が自決しようなど、自分には出来ないって」



 一瞬の間があったような気がしたのだ。本当に一瞬だった。



「裏切り者として、ここで撃ち抜いてほしい、そう懇願されたんだって。でも、彼の罪が消えるわけじゃないんだよね」



 声は止まらずに発し続けられた。



「それで断ったのに、こう、銃口を額に押し当ててね」

「黙りなさいよ!」


 ドアを蹴り上げて銃口を対象に向ける。我慢の限界だ。


 室内には二人。

 レイスと、その背後に居る、酷く痩せた自身より小柄の、隙だらけで棒立ちの少年だった。表情は一つも揺るがない。


 自身を子供だと思っているラーレよりも、ずっとずっと幼い。


 白銀の髪、肌は恐ろしいほど青く色白であった。恐らくアルビノとかいったはずだとラーレは感じた。それでも、今はだ。

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