⑥-2 聖女として②

「見えました! 赤が弱いです、じゃなくって。不安定なの水! だから、うん、火です! 火属性が多く足りない!」

「大丈夫だ、ティトー! 伝わってるぞ。ここは俺が」

「あら、なら私でしょう」


 マリアが浮遊する杖を片手に引き寄せながら、艶めかしい指先で敵を指した。だが、その指先をアルブレヒトが強引に降ろさせた。


「お前、消し炭にする気か? やりすぎなんだよ! レオが切らなきゃ、爆炎で見えねーじゃねえか」

「まったく、この女は」

「コアなら、目を凝らせばエーテル反応で見えるじゃない、何言ってるのよ。後その女って止めてくれない? レオポルト殿下」


 殿下とはレオポルトの事である。レオポルトの父はセシュールのラダ族が族長だが、母はルゼリアの王女なのだ。籍はないものの、王族の血を引いているのだ。


「マリア、君のせいで見えないのに、何を言っている。君の爆炎で、周囲までエーテルは真っ赤だ」

「あ、そっか」


 マリアは風を収縮させると、竜巻として一気に天へ昇らせた。爆炎は一瞬にして、無になったのだ。


「これでどう? ティトーちゃん」

「あの、もう見えてますし、もうアルが平定してくれたよ」

「あら?」


 マリアが首を横に傾けた瞬間、魔物だった猪は立ち上がると、首を垂れた。そのまま一心不乱に、景国流に言えば猪突猛進で森へ突き進んでいった。


「まあまあまあ! これが平定ですのね。無理やりエーテルを抑えつけ、制圧するのですね! それにしてもなんて安定したエーテル。さすがですわ、ティトーちゃん、アルブレヒトお兄様」

「サーシャ、そのお兄様っての、やめろよ」

「あら。ごめんなさい。妹さんを思い出したかしら」


 サーシャはわざと”妹”と口に出すと、そのままティトーへ振り返った。とはいえ、戦闘はまだ続いている。猪の魔物はまだ二頭もいるのだ。魔物は動物のエーテルが変化した姿であり、聖女のように浄化して消滅させるほか、術はなかった。


 巫女とは言え、歴代の巫女はそのような平定を行った歴史はなく、レオポルトによって編み出されている。


「おにいちゃん!」

「ティトー、わかるか?」


 おにいちゃんと呼ばれたレオポルトは、弟であるティトーの呼びかけに呼応するかのように、猪を二頭ほど同時に峰打ちにすると、静かに剣を腰へ差しなおした。


「どっちも、緑と赤だから、どっちも風と火が不安定! ちょっとだけ、火が強く不安定だよ!」

「ということは、多少強めの水属性と地属性か。俺が行こう……水と地の平定!」


 レオポルトの魔法エーテルの制圧により、魔物はすぐに正気を取り戻した。峰打ちから直ぐには動けなかったものの、サーシャとティトーによる治癒魔法により応急措置が取られた。猪に戻った動物は、先ほどの一頭が突き進んだ方向へ進んでいった。どうやら家族のようだ。

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